2021年2月22日月曜日

ベトナム人材の論理思考を鍛える

 本年も弊社では「論理的思考」の公開研修講座を開催し、例年同様に盛況でした。また、同業他社にても論理的思考をうたった研修講座をみかける機会は多く、ベトナム人材の論理思考に関する課題認識の高さがうかがえます。日本で論理思考というと、ロジックツリーやMECE(Mutually Exclusive Collectively Exhaustive)などのツールを教えるのが一般的ですが、ベトナム人材の論理思考はそうした高度なツールを活用する以前の課題のように感じます。

□ 聞き手の理解、納得を得る場面で論理性は求められるが。。。
 弊社の論理思考講座の冒頭では、「問題報告の目的はなんですか?」と問いかけます。すると、「問題状況を共有するため」や「問題を解決するため」といった回答がよく返ってきます。
 上意下達のトップダウンが一般的なベトナムでは、問われれば意見は言うが、意見を採用するかどうかは上司の判断といった発想が強いようです。同僚の意見に耳を傾けず一方的に発言するだけといったように、会議でも同様の状況がうかがえます。採決は議長の役割であって、参加者は各々の意見を発言するのみといった感じです。従って、他参加者の意見を汲んで建設的に議論する、皆の意見を総合して結論を導く、聞き手の合意を得る、納得させるといった論理性が求められる場面には不慣れですし、そうした機会に恵まれることが少なかったとも言えます。

□ 聞き手に期待する行動で報告の目的を定義し、意思決定のプロセスに沿って情報を伝える。
 こうした背景のもと、ベトナム人材の論理性を鍛えるには、高度なツールの前に「第3者の理解を得るには」といった初歩的な段階から教育していく必要があります。

- 聞き手に期待する行動で報告の目的を定義する
 第3者の理解、納得を得るために論理性は求められます。従って、まずは報告の目的を聞き手の視点から定義する必要があります。例えば、問題報告の目的は情報の共有ではなく、提案する対策への承認を聞き手(上司)から得ることなど、聞き手に期待する行動で定義するように指導しましょう。

- 聞き手の意思決定に必要な情報を提供する
 「聞き手の理解を深めるために、より多くの情報を提供すべき」といった、誤回答が弊社の講座内テストでは見受けられます。種々雑多な情報が整理されずに報告される、といった課題認識もよく耳にしますが、何でも知っていることはすべて話そうとしてしまのでしょう。聞き手に期待する行動を明確にしたうえで、その行動への意思決定のためにはどんな情報が必要か、必要十分な情報に限定して情報を収集し、伝えるよう指導しましょう。

- 意思決定のプロセスに沿って情報を整理する。
 顧客の購買意思決定についてですが、「認知➡理解➡評価➡判断」といった段階を経て人は意思決定に至るといわれています。認知段階では明確な主題や提案内容が期待され、理解段階ではなぜその提案に至ったのか背景や理由が期待され、評価段階では代替案の比較情報が期待され、これらの段階を踏まえて最終的な判断に至るというものです。聞き手に期待する行動を取るよう意思決定を促すためには、こうした聞き手の意思決定のプロセスに沿って情報を整理・提供するよう指導しましょう。

□ 論理的な報告を型にはめる
 人気を博する「論理思考講座」ですが、課題はそう簡単には解決しません。多くの受講生からは「理屈はわかるが実践は難しい」という声がよく聞かれます。なにぶん他人を説得する、理解を求める機会が少なかったベトナムですから、当たり前に論理的に話ができるようになるには時間と経験が必要です。
 手っ取り早く論理的な報告を促し、また経験を積ませるには、まずは型にはめるのが早道と思います。問題報告書やクレーム対策書などはもとより論理的に構成されていますので、記載要領を含め、可能な限り必要な報告は定型化し、経験の浅い人でもある程度論理的な報告ができるように仕向けるのが良いかと思います。 ベトナム人材の論理的思考は各社共通の関心の高い課題ではありますが、客観的な説明を求められる機会や経験が少なかったことが主因と思われますので、経験を積んでいけば徐々に改善されていきます。

2021年2月15日月曜日

グローバル人材って誰のこと?

 「グローバル人材」という言葉が広く使われるようになって久しいですが、いわゆる「バズワード(定義が曖昧な専門用語)」のため議論が錯綜している感が否めません。ベトナムというローカルで仕事をするようになり、益々「グローバル人材」の議論に対する違和感が増すようになりました。たまさか直近にて「日本はグローバル人材の育成を強化しなければいけない」といった話題に出会い、筆者なりに整理をしてみたいと思い立ちました。

□ グローバル人材って、誰のこと?
 「グローバル人材」に関する議論を散見するに、議論の対象者は様々です。「国際機関で働く日本人」や「日本企業の海外拠点で活躍する日本人」、「多様な国籍からなる部下を率いる日本人」「海外から日本へ留学する外国人」、「帰国子女」、「外国資本の企業で活躍する日本人」、「海外企業との橋渡しができる日本人」「世界的に著名な日本人」など各組織・団体や個人がそれぞれが求めるグローバル人材を定義している状況です。
 さすがにまとめようがなくなったためと思いますが、内閣配下のグローバル人材育成推進委員会における2012年時点での定義は「世界的な競争と共生が進む現代社会において、日本人としてのアイデンティティを持ちながら、広い視野に立って培われる教養と専門性、異なる言語、文化、価値を乗り越えて関係を構築するためのコミュニケーション能力と協調性、新しい価値を創造する能力、次世代までも視野に入れた社会貢献の意識などを持った人間」というスーパー日本人をグローバル人材として定義するに至っています。
 議論が錯綜する中で、「グローバル化に向けて、英語を社内の公用語にする」と短絡的に表明する企業が出てきてしまっているのが悲しい現状です。

□ 企業が求めるのは「企業内グローカル人材」?
 国際化が進む社会の中で様々な視点から国際化に対応できる人材を求める声が高まるのは必然的と思いますが、それらの異なる人材を「グローバル人材」と一括りにしてしまっているのが元凶でしょう。
 一方で、海外(ベトナム)で進出日系企業を相手に活動している筆者としては、企業に最も期待されているのは有能な海外拠点管理者の育成と日本国内の外国人材や海外拠点のローカル人材を社員として受け入れる制度整備と感じます。特に海外拠点管理者については、国際的な視野を持ちながらもアウェイであるローカルの地で現地化・自立化を進める、いわば「企業内グローカル人材」が求められているように思います。
 企業が国際化する中で、中核拠点や研究開発拠点などにて、各国の機能代表者を束ねるリーダとなる日本人材育成の声もありますが、その必要性に駆られる企業はまだ少数のようです。アラン・ラグマン教授の2004年の調査によれば、フォーチュン500社のうち地域別売り上げのわかる350社を対象に調査をしたところ、北米・欧州・アジアの各地域にて、自地域の売り上げが5割以下、他の2地域からの売り上げがそれぞれ2割以上ある会社は9社しかなかったそうです。また、2008年に同調査をフォーチュン500社に名を連ねる日系企業64社に対して行ったところ、3社しかなかったとあります。

□ 企業内グローカル人材の要件
 先のグローバル人材育成推進会議によれば、グローバル人材に求められる要素は「I:語学力・コミュニケーション能力」「II:主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感」「III:異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー」だそうです。「日本人としてのアイデンティティ」は比較的特長的と思われますが、他は日本国内でも同様に求められる要素に感じます。日本で活躍できない人材が海外で花開くことはまれで、やはり海外でも日本でも求められる要素に大きな違いはないものと思います。
 ある方から、「何を食べても腹を壊さないことと、ストレスに強い事が駐在員の条件」という話を伺い、ごもっともと思いました。筆者が付け加えるならば、1.(英語よりも)現地の言葉や文化を学ぶこと、2.自社の仕事の仕方や価値観をまったく無知の人に対して論理的に説明できること、3.ローカル人材に賞賛される一芸に秀でることでしょうか。 日本の国際化についてはこれからも議論が続くものと思いますが、的を絞った議論がされていくことを期待します。

2021年2月8日月曜日

チームワークは風通しの良い職場作りから

 

 部門間で問題を押し付け合う。人の意見に耳を貸さない。など、ベトナム人材間のチームワークは良く耳にする各社共通の課題です。震災下でも列を乱さない思いやりと気配りの国日本は、世界から称賛されるほどのチームワーク先進国と言えましょう。チームワーク先進国の日本からすれば、ベトナムが特にチームワークが苦手とは言えませんが、ベトナムの歴史や文化を振り返ると、この問題の根深さが伺えます。

□ 他人の畑に踏み込まないのがベトナム流
 弊社でのチームワーク講座にて受講者から「頼まれてもいないのに、人の仕事に口をだすのは失礼」という声を聞き、なるほどと感じました。確かに依頼すれば比較的快く従ってくれるベトナム人材ですが、会議後のコップの片付けなど「それは総務の仕事ですから」とわざわざ総務に電話を掛ける様子も見かけます。
 また、社内のチームワーク課題の解決にあたっても、「各人の役割をより明確にすべき」という声が聞かれ、おいおいそれは個人プレーの守備範囲を広げるだけだろ、とコメントすることもあります。
 かつて「藩が違えば国が違うのも同じ」と言っていた日本人が自らを「日本人」と意識し始めたのは明治以降とも言われます。中国の支配・相次ぐ統治者の交代・南北の分裂を通じて、村(一族)が社会の中心となったベトナムが国としての形を整えたのは日本が明治を迎えた時代から100年後のことです。
 近頃の大学新卒の社員などを見ていると、比較的うちとけてプライベートのことも隠さず話す人を多く見るようになりました。しかしながら、まだ一般には他人との軋轢を避け、あえて他人には明かさない・立ち入らないといった一族社会の風潮が、特に赤の他人との利害関係が生じる職場や商売関係では見受けられます。

□ チームワーク成立の3要素
 チームワークが成立するためには、①共通の目的、②協働のプロセス、③協働意識が必要と言われます。
 チームワークは心がけの問題と捉えられてしまうことも多いですが、互いの軋轢が強いベトナムでは、「チームで働け」と号令をかけるだけでは、なかなかチームとして機能しません。手間がかかりますが、日本人管理者などが仲介者となって、チームの目的を明示し、役割分担や定例会議の開催、報告手順などのプロセス作りのお膳立てをする必要があります。もしくは、共通の目的策定や協働のプロセス構築の手順を指導し、お膳立てが整うのを見守ることが必要でしょう。
 ここまでは頭の良いベトナム人材はすんなり理解・従ってくれるのですが、やはり困難なのが協働意識作りです。赤の他人とも協働するためには暗黙の信頼関係が前提になければなりません。知らない人でも容易に信じてしまう、世界的にもお人よしな日本人がチームワークを得意とする所以でもありましょう。
 World Value Survey (www. worldvaluessurvey.org)という、各国の価値観の違いの調査が概ね5年ごとに行われ、ベトナムは2006年に参加しています。信頼についての設問にてベトナムとアメリカ(同設問は同時期には日本で実施されていないため)を比較してみると、「家族を信頼するか」という問いでは、ベトナムでは「完全に信頼する」が約88%に対して、アメリカでは約70%、「隣人を信頼するか」という問いでは、ベトナムは約30%に対して、アメリカでは約10%となっています。一方で、「知人を信頼するか」という問いでは、ベトナムでは「あまり信用できない」が約24%、アメリカでは約5%となっています。
 残念ながら国の形ができて日が浅く一族中心社会の残るベトナムでは、他人を当たり前に信頼できる土壌が形勢されるまでにはまだ時間がかかりそうです。

□ 協働意識は風通しの良い職場作りから
 ベトナムに来て以降何度か、「ブルータス、お前もか!」のフレーズが思い出されるような苦い思いも味わった筆者は、従業員面接時の重要なチェック項目に、自身の弱みを打ち明けられるかどうかを上げるようになりました。また、突然の休暇申請の際など「私用」などの曖昧な理由ではなく、「子供が熱を出した」など具体的な理由を教えるようお願いしています。理由がわかれば、会社としても作業時間や内容への配慮ができるのですが、日本人にとってはさして差障りのない家庭の問題も、ベトナム人材によっては極端に話すのを嫌がります。
 優秀で経験豊富でも、仕事とプライベートを明確に分け、他人とかかわることを嫌うベトナム人材がいるのも事実です。即戦力でなくとも、気持ちよく一緒に仕事ができる従業員を採用し、忌憚なく意見を言い合える風土作りが、会社内での信頼の土壌作りにつながると考えます。

2021年2月1日月曜日

報連相は仕組み化で徹底しましょう

 特に日本から赴任された皆さんが驚かれるのが、ベトナム人材の報連相のなさでしょう。資料の翻訳などを依頼しても作業の途中経過の報告がないのは当たり前として、ともすれば翻訳を終えても報告がないことがあります(「終わった?」と聞けば、「終わってますよ」と応えてはくれますが)。

□ 報連相はないのが当たり前
 就労人口の6割超が自営業や家事手伝いに従事するベトナムでは、家業以外の職場に勤めることは、他の家の使用人になるような感覚なのでしょうか。使用人は、いやな顔や口答えなどせず、主人の指示に忠実に応える小間使い型の人材が重宝され、また主人の忠実な僕となることで認められます。
 このような就業感で仕事をしていれば、使用人は作業の遂行(Dower)に徹します。気の利いた使用人であれば問題が発生すれば自ら作業の仕方を変えて作業の目的を果たそうとしますが、作業の進捗状況や問題などの報告は問われなければ応えません。気の利かない使用人は作業の目的も理解せずに言われたまま・理解したままに作業を行い、結果報告にも気が回らないことがあります。

□ 知らないことを前提に報連相の型を教える
 まだまだ指示(主人)⇒実行(使用人)の単純な仕事の仕方が主流のベトナムでは、報連相を通じて異なる役割を担う従業員が状況認識を一致させ、各人が自立的ながらも統合的に行動する仕事の仕方は高度であり、また真新しいものでもあります。
 特に若手のベトナム人材は基礎力や吸収力も高いため、新しい高度な仕事の仕方にも比較的早く順応してくれますが、ともあれ知らないことを前提に報連相の目的をはじめとして、報連相の進め方を噛み砕いて教えていく必要があります。

・報連相を5W2Hで教える
 報連相は教えていけば徐々に身について行きますが、報連相の手法の間違い(連絡の相手が外出しているのに机に緊急のメモを残すなど)や報連相の中身の間違い(文具購入の提案はするものの、値段を確認していないなど)は散見されます。報連相はTPO(Time, Place, Occasion)に合わせた手法の5W2Hと中身の5W2Hで教育していきたいものです。

・報連相の手法の5W2H
What: 何について報連相するのか? 例)担当作業の進捗状況を報告する
Who: 誰が、誰に報連相するのか? 例)上司並びに作業に関連する人たちへ報告する
When: どのタイミングで報連相するのか? 例)月曜日の朝に報告する
Where: どこで報連相するのか? 例)進捗会議にて報告する
Why: 報連相の目的(期待する行動)は何か? 例)自身の進捗による関係者への影響を諮る
How: どんな手段を使って報連相するのか? 例)報告書を用いて報告する
How often: どんな頻度で報連相するのか? 例)毎週、前週との差がわかるように報告する

・報連相の中身の5W2H
What: 何について? 例)進捗遅延を生じた機械故障について
Who: 誰が? 例)A機械が
When: いつ? 例)2016年6月10日に
Where: どこで? 例)組み立て工場のBラインにて
Why: なぜ? 例)モータの焼きつきにより
How: どのように? 例)煙を発して停止した
How much: どれだけ? 例)モータ交換と修理のため3時間作業が停止

□ 報連相を仕組み化して徹底する
 日ごろ日本人管理者と直接接する機会の多いベトナム人材に対しては、報連相を直接指導することも可能ですが、言葉が通じずましてや大所帯の会社では、報連相の指導も十分には行き届きません。
 そこで、特に規模の大きな会社においては、報連相を仕組み化し、意味や目的は徐々に理解するとしてもまずは形を整え、業務に支障をきたさないような工夫をお勧めします。
 製造業では比較的仕組み化が既に進んでいるかと思いますが、電話の受付表やトラブル報告書、問題解決報告書、クレーム報告書、進捗報告書、休暇願いなど、報連相を必要とするケース毎に内容や記載要領、回付ルートも記載したフォーマットを定型化し、業務手続きとして規定することにより、誰もがある程度の報連相品質を保てるようにできます。

 ある程度報連相が浸透しても、やはり難しいのが自身の家庭状況が関わる報連相と、他人の間違いを指摘する報連相でしょうか。突然の休みや離職の際は「私用で。。。」などの理由で、なかなか実情を語ってはくれません。また、他人を非難することになるような報連相は逆恨みを恐れてなかなかできないようです。公私の隔てない報連相を実現するには、まだまだ時間がかかりそうです。

果たして経営の現地化は進むか

 90年代後半、世界経済の3つのシナリオというのを目にしました。世界経済は大国のもと一様化するという第一のシナリオ、少数の強国に収れんされるという第二のシナリオ、そして複数の国により混沌化するといったものです。ソ連崩壊後の安定した経済化の当時は、当然のごとく第一シナリオが有力に感...