2020年12月28日月曜日

賄賂は社会の潤滑油?


 この稿が出稿されるのは12月で、まだベトナムの旧正月までは2ヶ月ほどありますが、本稿が皆さんの目に触れる頃には、例年であれば街角に交通警察が目に付く季節になっているのではと思います。
 年末の交通安全運動かと思いきや、当地にお住まいの方はご承知のとおり、正月前の小遣い稼ぎの取締りです。

□賄賂習慣はあります
 ベトナムに新たに進出をされる会社の方々の一つの心配事項は「賄賂習慣」ではないかと思います。確かに、賄賂は一般的な慣習として、人と人とのやりとりの至る所に存在します。

- お礼としての賄賂
 少し前の日本でもお中元やお歳暮など、時候の挨拶代わりやお礼に物を贈る習慣はありました。ベトナムでも、おすそ分けやお礼を贈る習慣はあり、筆者も近所の方から果物のおすそ分けをもらったり、訪問先のベトナム企業から接待を受けるということは良くあります。今でこそ日本では疎まれますが、会社に採用してくれた際や取引をしてくれたお礼などで現金が流通することは、当たり前にあります。

- 煩わしい手続きを回避するための賄賂
 杓子定規なベトナムでは特に役所の手続きなどに際しては、担当者の独自の解釈で書類などの妥当性が判断され、わずかな不備や不整合を見逃してくれないことが良くあります。取り寄せた公式書類の不備などを指摘された日にはにっちもさっちもいかないため、賄賂等の手段に寄らざるを得ない場面もあります。
 また、交通警察に捕まった際の賄賂金額などは違反金額よりも安く設定されており、わざわざ面倒な手続きを経るより賄賂で済ませたほうが警察官・違反者ともに都合が良かったりもします。

- 生活補助としての賄賂
 ベトナムでは公務員と民間企業の最低賃金は別に設定されており、2019年時点でわずか149万ドンと民間企業の約1/3です。また、政府の財政難からしばしば最低賃金の見直しも後倒しとなり、2020年の最低賃金の見直しは先送りとなりそうです。
 幾ら雇用の保証があるからといって、公務員が薄給に甘んじるわけもなく、当然のことながら副収入を求めることになります。先の手続き回避のための賄賂も収入源ですが、教師が時間外に有料で補習を行ったり、病院の診察順を早めるために看護婦が手数料を受け取ったりと、生活費稼ぎのための賄賂も存在します。
(先生の日に花をもらった先生が生徒に、「花ではなく現金を持って来い」と言ったとかで、社会問題になったこともありますが)

- 私腹を肥やすための賄賂
 日本のODA関連でも取りざたされたタイプの賄賂ですが、筆者もベトナム政府がらみの案件で監督庁に電話で問い合わせた際に、「xx万ドルを出せば案件を御社が受託できるようにする」と電話口で言われたことがあります。
 公務員の賃金が低い一方で、役所などを訪ねると年齢の割りに身なりが整い高級な腕時計や高級車を乗り回している役人に出会うこともままあります。

□賄賂との決別宣言と周知徹底
 採用の際に応募者からお金をもらうのはいかがなものと思いますが、旧正月時に取引先から送られてくるお歳暮など、一般的な贈り物についてはそこまで目くじらを立てる必要はないのかも知れません。
 しかしながら、公務員ばりに収入補助のため、または私腹を肥やすための賄賂を社内に持ち込まれると、社内に賄賂を中心とした別の組織が立ち上がることになります。
 日系企業でも、日本人から最も信頼を得ていた女性幹部が実は親玉で、掃除のおばちゃんに至るまでの社内賄賂ネットワークを築いていた、といったケースもあります。
 一般には賄賂を要求するような行為はベトナム人も好むところではありませんので、「賄賂は求めない、受け取らない」といった宣言と姿勢を明確にすれば、大半の人は賄賂に手を出すようなことはありません。
 加えて、採用などの場面では2重に審査をかけるとか、購買の担当者は定期的に交代するといった予防措置は賄賂決別の姿勢を見せる手段としては有効です。
 しかしながら、経理が支払いを遅らせる/ 組合の委員長が食堂の業者選定を行う/ 親類のサプライヤに発注する/ 決まったタクシードライバーを呼ぶなど、賄賂の誘惑に駆られる場面は日常業務の至るところにあり、全てに目を光らせることは現実的には困難です。
 平均的なベトナム人材は賄賂が一般化することで社内が荒れることを嫌います。こうした人たちが日本人管理者に耳打ちする機会を塞がないよう、賄賂からの決別宣言を行うとともに、幹部任せにせず、現場とのコミュニケーションを図ることが重要と思います。

2020年12月21日月曜日

拠点経営が見える化されていますか?

 長くお付き合いさせていただいた現法の社長が帰任されました。帰任の際に「ここ(ベトナム)では自分が決めればすぐに物事が進むのに、日本に帰れば簡単なことでも稟議だ役員会だと2、3ヶ月かかることを思うと気が重いよ」とおっしゃっていたのが、記憶に残ります。生き生きと現法経営に手腕を振るう経営者がここにもいたと、うれしく感じるとともに、社長が経営を一手に握る現法経営のあり方に一抹の不安も覚えます。

□社長まかせの現法経営リスク
 各社の人材育成のご相談に乗らせていただくにあたり、経営者の方の熱い思いにふれる機会もよくあります。
 「中国ではなしえなかった理想の工場をベトナムでは実現したい」
 「3、4年後には自分も交代になる。次社長が来ても経営の根幹が揺るがないように社長と対等に議論できる管理者を育てたい」。
 心に刻まれるような思いのある経営者の下での人材育成は必ずや成功します。
 一方で半ば従業員にのっとられてしまったかのような会社からのご相談もままいただきます。
 「前社長が従業員に自由にさせていたところ、業務の全てを従業員が握ってしまい、方向転換をしようにも言うことを聞いてくれなくなってしまった」
 「キーパーソンの従業員からの紹介を皮切りに近親者採用を認めたところ、社内の近親者同士が結託するようになった」
 「『何かするなら、まず私に相談してください。そうしないと何が起きても知りませんよ。』と幹部従業員に諭された」
 現法経営が社長の手腕にかかっていることは当然のことです。また、海外現法で手腕を活かすことは、日本人管理者の経営力を伸ばす格好の機会でもあります。しかしながら、現法経営の成否が社長個人に委ねられている場合には、同時に大きなリスクを抱えることにもなります。外見では本社の期待に応える業績を達成していても、実は社内に賄賂が横行し、親分株の従業員が会社を牛耳り、赴任された日本人を手のひらの上で転がしているような状況も生じえます。

□「職業は買う」がベトナム流
 2012年頃には、「公務員の採用に賄賂が横行しており、1件あたり少なくとも1億ドンが謝礼として支払われている」という告発も報道されました。外資系企業に勤める従業員の間では少しずつ薄れつつある考え方ではありますが、伝統的な考え方の人たち、また国営企業を目指す人たちにとっては、人脈がなければ「職業は買う」というのが常識として残っています。そして、職に就いても特に公務員は薄給が当たり前ですので、必然的に立場を利用した副業をすることとなります。労働法でも本業に支障をきたさない限りは副業を認めることが明文化されています。
 就労人口の6割超を自営セクターが占めるベトナムでは、まだまだ組織への帰属意識は高くはありません。家族を十分に養える規模の自営業を持たない個人が会社という組織に参加し、自身の商売を会社内に展開し家族に貢献するといったような就労イメージでしょうか。自身の商売にも会社業績にも悪影響を与えるような不正はしませんし、自身の商売の発展につながる会社業績への貢献は進んでします。一方で、自身の商売に不利になる組織変更や方針転換には反対しますし、会社が窮した場合には、沈みかけた船からは一目散に退散します。
 日本人としては会社への愛着心や忠誠心を従業員に期待してしまいがちですが、そうしたベトナム人材にめぐり合える確率は日本よりは少ないと想定されたほうが良いかと思います。

□現法経営の見える化は進んでいますか?
 拠点横断での情報交換会、本部主導での拠点横断の品質管理体制、全拠点でのジョブグレードの標準化など、現法経営に横串を指す活動が活発になってきています。ブラックボックスとなりがちな現法経営ですが、こうした活動は現法の業績指標管理のみならず、現法の風土や体質、コア人材の考え方など、広く現法経営の見える化、風通しの良さにつながるのではと考えます。
 筆者が直接かかわる領域は人事関連となりますが、各拠点の人材の育ち具合、離職事由、士気の状況など、現法代表の手を煩わせることなく本社・他拠点が把握できる活動の推進が期待されます。

2020年12月14日月曜日

ベトナム人材採用はデータで勝負

 昨今の採用では、日本人応募者を目利きすることにも自信を失いつつありますが、もとより言葉や文化の異なるベトナム人材の採用では、筆者は数限りなく失敗を繰り返しています。
 採用面接は互いを見極める「お見合い」の場などと言われますが、採用されてから就職するかを考えるベトナム人材はなかなか本性を現しません。

□良い人を探す前に、問題児を採用しない

 弊社への研修のご相談時にもよく耳にする課題指摘ですが、採用後に仕事にも慣れてきたベトナム人材の問題行動には以下のようなものがあげられます。
- 自分のミスを認められない。ミスを指摘すると言い訳が続き、ついには逆切れする。
- 問題が生じると他部署や他人のせいにする。自身では動かず、「xxさんに依頼して下さい」と仕事を振り返す。
- 他部署や他人の仕事に関心を示さず、自分の仕事が終わるとさっさと帰る。部下に仕事を依頼して自分は早々に帰宅する。
- 会議など、自身の主張を繰り返すだけで、他参加者の意見に耳を貸さない。決まったことでも自分の意見と異なると従わない。
- 「私用で休みます」と、理由を明かさない。プライベートへの質問に極端な抵抗を示す。
 こうした方が職場にいると、雰囲気が殺伐とし、個人主義・事なかれ主義がはびこってしまいます。
 また、もとよりベトナムではこうした性格の人は珍しくもないため、他のベトナム人従業員は不満ももらしませんが、関わりあわないようにと互いに疎遠になっていきます。
 問題児のベトナム人材も教育を通じて少しずつ変わっていくケースも見られます。しかしながら、手間も時間も取られますので、採用しないことが第一です。即戦力を探すことは相当に難しいベトナムですが、普通の人であれば育てれば育ちます。まずは、採用段階で採用すべきでない人は採用しないことが大切と思います。

□ベトナム人材の採用はデータで勝負
 人材紹介者が先記のような問題児を紹介前に選別してくれることを期待しますが、実態は猫をかぶった求職者と簡単な面接を行うだけのようですので、自衛手段を考えざるを得ません。
 現場作業者の採用では、「名前を書く欄を指示したにも関わらず、名前を違う場所に書く」など、人の指示を聞けない候補者がいるのも事実です。また、大卒者の面接でも「自分の性格を説明してください」という問いに十分に応えられる人はほとんどおらず、本人自身が自分を理解していない状況が伺えます。直近行った面接では、候補者が映画好きだというので、「自分の好きな作品を上げて、その作品から何を感じたかを説明してください」と問うたところ、「最後に主人公の女性が幸せになれて良かった」というので、「何を感じたのか、聞いているのです」と問いただしたところ、「もう私の意見は言いました!」と切れてしまいました。
 この面接では候補者が切れた段階で、概ね性格が知れたのでよかったのですが、自分の性格を説明できないことが一般的なベトナムで、面接で候補者の人となりを理解することは相当に困難です。
 そこで弊社では、面接時の印象などは補足情報にとどめ、むしろテストなどを通じたデータを主体に候補者を選抜しています。
 最近では日本で実施しているような採用テストがベトナム語で実施できるようになってきています。費用が気になる方はインターネットでも簡易的なテストは入手可能ですので、最低以下の視点からのデータを入手し、採用判断に活用されてはと思います。

- 知能テスト
 いわゆるIQテストですが、概ね頭の回転の良さが図れます。弊社では日本人の候補者の方にも同じテストを受けていただいていますが、ベトナム人の方が平均して得点は高く、やはり頭が良いんだなあと関心してしまいます。日越人を問わず、極端に点の低い方は避けるべきでしょう。
 現場作業者向けには、算数や国語などのテストを実施している会社は多くあります。

- 心理テスト
 多種のテストがありますので、どういったテストを実施するか悩まれることと思います。
 弊社では試験的にパーソナリティ障害の簡易診断を実施しています。傾向が見られるだけで合否はありませんが、他者への懐疑心や自己愛の程度、依存性の強さなどの傾向が測れます。平均と比較して極端な数値が出る際には注意が必要です。
 現場作業者向けには、面接や試験を待つ間の姿勢・態度などを観察して選抜されている会社もあります。

2020年12月7日月曜日

管理姿勢サーベイ10選

 弊社が社内研修を始めて実施させていただく会社には「管理姿勢サーベイ」を実施し、研修後の指導に役立てる参考情報として提供しています。「管理姿勢サーベイ」は各社のベトナム人従業員の考え方がどの程度日本的な価値観に染まっているかを図る目的で設計したものです。今回は、様々な会社様に「管理姿勢サーベイ」を実施してきた経験から、特にベトナム的な特徴が現れやすいサーベイ項目を紹介したいと思います。

□管理姿勢サーベイ10選
1. 問い :「高い地位や特別な技術を持った従業員は給与以外にも高い待遇を受けるべきだ」
 期待する回答 :NO、「役職は役割の違いに過ぎず、給与以外は皆平等」
 この設問は”YES”と回答する方が比較的多く、「上司が良い待遇を受けることで、部下の動機付けにつながる」といったコメントが寄せられます。特にベトナム企業では管理職には個室が与えられたり、昼食のメニューが異なっていたり、通勤用車が手配されたりと厚遇を受けることが多いためと思われます。

2. 問い :「部下を褒めたり叱ったりする場合は、皆の前でするべきか」
 期待する回答 :NO、「個人別に話をすべき」
 この設問は意外に、”NO”と回答する方が多いです。日本人が外国人をしかる場合の注意事項として良く知られている内容ですが、やはりベトナム人も部下のプライドに気を配っている様子が窺えます。ただし、まま「間違いを知らしめるために、皆の前で叱るべき」というコメントがあります。

3. 問い :「会議では自分の考え方を押し通すのが良い」
 期待する回答 :NO、「参加者の意見に耳を傾け、合意案へまとめあげる」
 この設問は”YES”と”NO”の回答が半々くらいになりましょうか。”YES”と回答する方は、「参加者の意見に耳を傾けると会議が混乱する」というコメントが典型的です。会議は決定を伝える場であり、議論の場ではない。意見を求められると他の参加者の意見に耳も傾けず自身の利害だけを考えて発言する、傾向の表れでしょうか。

4. 問い :「ルールの遵守のためには、より詳細で厳しいルールを設定すべきか」
 期待する回答 :NO、「ルールが不要になるよう、皆のマナーを高める」
 この設問は顕著に”YES”の回答がでやすいです。まだルールそのものが未整備・不整合を起こしているベトナムですが、一般に「管理」とはルールを決めて発行/取り締まることであり、ルールが遵守されない場合には更に厳しい罰則を科す、と考える傾向が伺えます。

5. 問い :「会社のために頑張れと部下を鼓舞すべきか」
 期待する回答 :NO、「自分のために頑張れと鼓舞すべき」
 やや意図が理解しにくい設問ですが、顕著に”YES”の回答がでやすいです。「会社の目標達成に向けて従業員は努力する必要がある」などのコメントが得られます。まだ仕事が自身の成長や人生にどのように役立つのかと考えが至らない様子が窺えます。

6. 問い :「購入部品の品質担保は自分たちの責任か」
 期待する回答 :YES、「サプライヤを含めて品質確保・向上の努力を払う」
 こちらは顕著に”NO”の回答がでやすいです。仕入れ材料の品質問題などが生じても、「サプライヤに改善を依頼する」などの対応策を掲げるケースが多く、組織の壁を超えて問題解決を進めることにためらう様子が窺えます。

7. 問い :「生産活動の継続のため、在庫はできるだけ多く保持するべきか」
 期待する回答 :NO、「最適在庫を目指して、在庫を減らす」
 こちらも比較的“YES”の回答が出やすい設問です。「在庫不足で生産が良く止まる」などのコメントが聞かれますので、現実には在庫の確保に苦慮する様子も窺えますが、在庫が"悪”であるという考えが薄いとも思われます。

8. 問い :「管理の視点から、最も優先されるものは?(生産性、品質、安全、利益)」
 期待する回答 :「安全」
 こちらは意外にも4割程度の方が「安全」以外を回答します。安全第一は各社で叫ばれている標語ですが、各期の重点管理項目に左右され、「品質」や「利益」と回答する方が多くいます。「安全」を満たした上で「品質」や「生産性」を高めるという優先順位の理解が薄いようです。

9. 問い :「部下が作業手順に従えない場合は、従うよう強制するか、要員を交替させる」
 期待する回答 :NO、「作業手順に従えない理由を明らかにし、必要であれば手順を見直す」
 こちらは3割程度の方が”YES"と回答します。半数以上の方は部下を育てる必要性、部下に仕事をしやすい作業環境を与える必要性を理解していますが、一部の方には部下は仕事ができて当たり前、できなければ辞めるしかない、と考えるようです。

10. 問い :「他者が抱える仕事上の問題解決にも積極的に関わるべきだ」
 期待する回答 :YES、「他部門の問題にも自部門の視点から解決に参加すべき」
 こちらは会社により傾向が変わる設問です。概ね”YES"が多くなりますが、"NO”の回答が多くなる会社もあります。典型的なコメントは「自身の責任範囲以外の仕事には口を挟むべきではない」となり、人の芝生には足を踏み入れない考え方が窺えます。

果たして経営の現地化は進むか

 90年代後半、世界経済の3つのシナリオというのを目にしました。世界経済は大国のもと一様化するという第一のシナリオ、少数の強国に収れんされるという第二のシナリオ、そして複数の国により混沌化するといったものです。ソ連崩壊後の安定した経済化の当時は、当然のごとく第一シナリオが有力に感...