2021年1月25日月曜日

マナーを高めてルールを減らす

 立ち上げられて間もない会社がまず苦労するのが社内でのルールの徹底ではないでしょうか。バイクは道路を逆走する、レストランではゴミを床に捨てるなど日系企業ではあるまじきルール違反が言わば社会の常識ともなっているベトナムでは、ルールを徹底することも一筋縄では行きません。

□ 上に政策あれば、下に対策あり」
 「上に政策あれば、下に対策あり」は中国で言われる事柄ですが、こうした考え方はベトナムでも当てはまるように思われます。交通事故を少なくするためのヘルメット規制も、ドライバー達は自分達の自由を束縛するものとして、品質基準を満たさない安価なヘルメットをかぶって違反を回避します。
 支配層がころころと変わってきた歴史を経て、一族が社会の基盤となっているベトナムでは、政府の政策は天から降ってくる押し付けごとと受け取られてしまうのでしょう。会社のルールについてもまたしかりです。

□ ルールの目的を解説し、共有する
 社内ルールの展開をベトナム人担当者が行うケースが多いですが、ともすればルールの説明にとどまり、なぜそのルールが必要なのか、目的が説明されていないケースが散見されます。もとより、一般的なベトナムでの統制管理の仕方は、「ルールを発布して、守れなければ罰則を厳しくする。ルールを守るか否かは各個人の責任。」というものです。
 まずはルールが各人を縛り付ける「会社のためのもの」ではなく、従業員が安全・快適に職場で協働するための「従業員のためのもの」であることを前提に、各ルールの目的を解説してあげる必要があります。「食後に楊枝を床に捨てない」など、なぜこうしたルールが従業員のために必要なのか、説明できないベトナム人担当者もいます。

□ ベトナムの現状にそぐわないルールの設定は避ける
 日本での常識から、ままベトナムの実態にそぐわないルールが設定されているケースも見受けられます。
 通勤時の靴の着用など、バイク通勤での安全を鑑みたルールであることは理解できるのですが、ベトナムの高温多湿な気候や突然のスコールなどを考えると、現実的には従業員に苦痛を強いるルールとなってしまうこともあります。現実との折り合いを考えてルールを設定・工夫をする必要があります。

□ マナーを高めてルールを減らす
 ルール違反が常習化する人を排除する目的では、イエローカードの発行など違反の実績を記録しておくことは必須ですが、ルール設定の目的は違反者を罰することではなく、皆がルールを守れるようにすることであることを忘れてはいけません。
 ルール違反者へ対処するとともに、好マナーの事例を表彰するなど、思いやりや気づきを高める施策を手がけたいものです。
 また、ルールは会社が決めるもので、従えなければ従業員は退社すべきものとも受け取られがちです。しかしながら、個々の違反事例を分析すれば、ルールの改変により、従いやすいルールにすることは可能なものです。
 組合や安全・倫理委員会などを通じて、守りにくいルールの改善提案を促すのは、従業員の自主性や改善力を養う上でも効果的と思います。

 弊社が請け負う社内講座では、受講者が自発的に遅刻への罰金を課すことがあります(講座後のパーティの原資となる)。こうして自発的に設定したルールは守られやすいですし、違反をしても後腐れがありません。従業員がより良い職場作りを目指して自主的にルールを決められるようになることが理想と思います。

2021年1月18日月曜日

新たにベトナムに赴任された皆さまへ

 今年も新しくベトナムに赴任される方が多い季節を迎えました。バイクの多さや路上の風呂椅子での食事風景、ベトナム人の人懐っこさなど他国から横滑りで赴任された日本人の方々にも始めは新鮮な驚きが続く日々と思います。しかしながら、筆者もそうでしたが徐々にベトナムでの生活・職場への理解が進むにつれてストレスが溜まり易いのが赴任1年目です。

□差でなく違い
 レストランではゴミを床に捨てる、バイクや車までもが道路を逆走する、手を洗った後に拭かないためトイレのドアノブがいつも濡れている、などなどベトナム生活を知るにつれベトナム・ベトナム人材の課題が目についてきます。そんな時、つい口に出てしまうのが「日本では。。。日本人は。。。」といった日本とベトナムとを比較してしまう言葉です。
 ベトナムでの在留邦人数も13,000人を超えましたが、人口9,000万人のベトナムではわずか7,000人に1人の日本人です。「これはおかしい」と叫んでみても日本の常識など通用しようもありませんし、「ここはベトナムだ」と言い返されるのが関の山です。
 もちろん日本企業では各社なりの常識にベトナム人であれ染まってもらう必要はありますが、まずはベトナムと日本では常識が異なることを「差」でなく「違い」として冷静に受け止めることが必要です。

□ベトナム人材とのお勧めの接し方
 日本人と似ていると喧伝されるベトナム人材ですが、知れば知るほど違いが見えてきます。赴任されて間もない皆様に、筆者なりのベトナム人材とのお勧めの接し方を紹介します。

1. まずは笑顔で
 外国人は笑顔で迎えるベトナム人材ですが、ベトナム人同士の人間関係はかなりぎすぎすしています。特にベトナム企業では同僚同士の水面下での足の引っ張り合いは日常茶飯事ですので、互いに安易に気を許すことはありませんし、腹を割って本音で語るということはありません。
 ベトナム人はベトナム人に対しては慎重に接しますが、逆に気を許しやすいのが外国人です。笑顔で接することで比較的容易にベトナム人材から信用を勝ち得、打ち明け話を聞き出すことができます。甘やかして付け上がるのを恐れて(実際、付け上がりますが)強面で接してしまいがちですが、信用を勝ち得るまでは笑顔を優先することをお勧めします。

2. 叱っても怒らない
 日本では怒るのも愛情表現の一つ、怒鳴られて成長するという考えもありますし、筆者もバカアホ呼ばわりされながら鍛えられたと自負しています。しかしながらベトナムでは少し様子が違うようです。
 ベトナムでは感情を露わにするのは大人として恥ずかしいこと、理性を失い敵意をむき出しにしていると受け止められるようです。感情的に怒ると、自己防衛本能の強いベトナム人
材の中には押し黙るか逆切れする人も多くいます。あくまで淡々と間違いを指摘し、冷静に指導・叱るのがベトナム流です。ベトナム企業では部下が失敗しても怒ることはありませんし、叱ることすらないことも多いです。

3. 信用しても信頼しない
 言葉が通じないベトナムでは、それぞれベトナム人従業員の個性や特性が十分に理解できるまでは、言葉の通じる日本人好みの気の利いたベトナム人材に肩入れしてしまいがちです。ともすれば気持ちが入りすぎてしまい、この子は付いて来てくれるに違いないと思い込んでしまうこともあります。
 しかしながら、こうした相思相愛との思い込みは片思いに終わることも多いので注意が必要です。ベトナム人材にとっては「会社」の優先順位は家族や自身・友人に劣ります。口では「頑張ってxxさんの後を継ぎます」と言っても、家族から頼まれたり、自身のキャリアにつながる機会があれば簡単に心が揺らぎます。
 優秀で信用できる成果を出すベトナム人材も多いですが、決して過信しないことが大切です。2の矢・3の矢を用意しておく心積もりが必要です。

□ベトナムは人間修養の場
 ベトナムでは日本では目にしないようなことが次々起こります。信頼した部下に裏切られ、心が折れるようなこともあります。筆者は「ベトナムは人間修養の場と考えてください」と日本人の方にはお願いしています。3年も経てば大抵の問題には驚かなくなります。物事に動じない達観した心を持てるよう、日々精進ください。

2021年1月11日月曜日

若手日本人管理者の育成に向けて

 拠点の現地化を日々の業務を通じて進めることが期待される若手日本人管理者ですが、日本での管理経験の少なさや、日本に製造現場がないための経験不足などから、ベトナムにて管理者としての役割を担うことに苦戦しているという話をよく耳にします。

□成長の機会を活かしましょう
 「日本では稟議だ根回しだと、一つの施策の承認を得るのに数ヶ月を要するが、ここでは自分の判断で即座に行動に移せる」と、生き生きとされている経営者の方をまま見かけます。思いの強い経営者の方には、現法のトップとなることは自身の手腕を活かす格好の機会となっているのでしょう。
 本社が若手の日本人材に拠点の管理者として赴任を命ずるのも、施策の展開のみならず海外拠点での成長への期待があってのことと思います。
 言葉も通じないベトナム人部下を率い、文化も異なるベトナムで管理者として判断・行動することは、日本とは異なる難しさにぶつかる面もあります。しかしながら、まずは日本ではなかなか得られないチャンスをましてや海外で得ることができたと考え、成長の機会を活かして臆せず果敢にチャレンジしてもらいたいと思います。
 筆者も、経営者という立場をベトナムにて初めて体験し、苦しみながらも日々楽しんでいます。

□管理の第1歩は目的・目標の設定から
 管理は「目的・目標の実現・達成に向けて、経営資源を集め・配置し・活用し・評価する活動」といったように定義されています。ここに見られるように、管理の第1歩は目的・目標の設定から始まります。まま、初めての管理者としての役割にとまどい、管理者として「何をすべきか」に悩んでいる管理者の方を見かけます。まずは「何をすべきか」ではなく「何を成すべきか」を問うべきでしょう。
 目的や目標のない管理者の取る行動は管理ではなく、監視となってしまいます。担当部署の目標達成や赴任ミッションである施策の展開、ベトナム人担当者へのノウハウの移転など、管理の目的・目標を見定め、上司の方と握っていただきたくことが管理の出発点と思います。

□管理者なき管理が良い管理
 管理行動というと、頻繁に現場を巡回し、こまめに部下に指導することを真っ先にイメージされるように思います。確かに現場の状況をつぶさに把握しておくことや部下とのコミュニケーションを円滑にすることは大切ですが、忘れてはならないのが管理のための風土や仕組み作りです。
 「管理者なき管理が良い管理」という言葉があります。管理は複数の人が働く場では必ず必要となりますが、「管理者」は必ずしも必要でありません。管理者がいるとういことは、そこに削減すべき間接コストがあるとういことです。目指すべき管理は管理者がいなくとも現場がスムーズに動き、問題にすばやく対応できるようになっていることです。そのためには、体制を整え・役割を明確にし、手順や標準を構築し、目的や心構えを共有する仕組み作りと風土作りが必要となります。
 管理者が不要となるように現場を育てることによって、管理者は本来業務である方針の立案や組織の開発に注力することができるようになります。

2021年1月4日月曜日

活気のあるベトナムは就活の天地?

本年で筆者の在越年数も15年目を迎えました。自身が年を増したせいでもありましょうが、最近では20代の若手の日本人がベトナムで活躍する姿も目に付くようになりました。本稿の読者のほとんどは会社勤めの方々と存じますが、日本を離れてベトナムで職を探そうという方々に向けてエールを送りたいと思います。

□活気のあるベトナムで働きたい
 現地採用を目指してベトナムで仕事探しをする日本人の方へ「なぜベトナムで働きたいのですか?」と問うと、よくいただくのが「ベトナムは活気があり、成長も期待される」という回答です。
 確かに、失われた20年が30年に延長しそうな日本に比べれば、バイクが縦横無尽に走り回り、道端の路上店が賑わい、次々に新しいビルが誕生するベトナムは活気に溢れているように見えるのでしょう。
 2019年のGDP成長率は約7%とも報じられ、1%前後の成長で嬉々とする日本と比べても、ベトナムは目覚ましい発展を遂げています。
 しかしながら、ベトナムの活況も先進国である日本から来る異邦人は冷静に状況を見つめる必要があります。
 一人当たりGDPが2,700ドル程度のベトナムにて、7%のGDP成長率は一人当たりでみれば、180ドル/人/年のGDP増となります。一方で円安のもと一人当たりGDPが40,000ドル程度となっている日本は1%の成長で、400ドル/人/年のGDP増です。すなわち絶対額でみれば一人当たりのGDP増は日本の方が200ドル以上高くなります。つまり、ベトナムの活況の恩恵はベトナム人に取っては著しい成果となりますが、在越の日本人にとっては活況のわりに恩恵が少ないと感じてしまうということです。

□ベトナム人が競争相手
 昨今は、ハノイ市やホーチミン市で講演する機会も増え、特にベトナム人材の特質についてよく話をさせていただいております。講演の中で最近よくご意見をいただくのは、「ベトナム人材にも課題はあるが、日本人も似たりよったりだよ」という声で、筆者も大いに賛同するところです。
 ただでさえ海外志向が薄れている日本で、若手日本人材がやる気と期待を糧に飛び込んでくるのは素晴らしいことですが、ベトナムでは同世代のベトナム人材が競争相手として待っているということを念頭に置く必要があります。
 途上国にありがちな大卒者の人余り状況にあるベトナムでは新卒者はまだ250ドル程度で雇用できます。一方で若手とはいえ日本人材を採用するとなると、20代前半でも1500ドル程度の給与は支給しないとベトナム人化していない外国人が生活できる水準が満たせません。つまり、経営者の視点からは日本人材には必然的に5倍以上の生産性もしくは能力が求を求めてしまうということです。国が発展途上なら人材も発展途上のベトナムでは、日本語以外でも日本人材が優位に立てる場面は豊富にあり、若手であれ日本人材にはベトナム人材への手本となることが期待されます。
 ところが、日本的な仕事の仕方が確立していないうちにベトナムに飛び出してしまった日本人材はベトナム人材と同じようにホウレンソウや仕事の段取り組みなどの課題を抱えています。ともすれば、日本企業で経験を積んだベトナム人材からは「あの日本人は仕事ができない」と指摘を受けてしまうことさえあります。
 ベトナムでは日本語人材も増え、単に日本語を強みにするだけでは、ハングリー精神に富み・日本的サービスを心得たベトナム日本語人材には歯が立たなくなってきています。

□手に職をつけて途上国人材との競争に臨みましょう
 語学や経理、機械工学など、ベトナム人材は大学での専攻との関連で職業を選ぶことが多いです。血縁や地縁に頼らずに出世を試みる人たちは専門性を頼りにするということでしょうか。自らの専門性が磨ける職場を選び、貪欲に吸収していくベトナム人材は未成熟な部分はあるものの成長スピードは速いです。
 日本を飛び出す若手日本人材の競争相手はこうしたベトナム人たちです。やる気や人柄だけでは、実利的・現実的なベトナム人材には太刀打ちできません。
 ベトナムではマイノリティの日本人ですから、ことさら自身が日本人であることを自覚させられ、またベトナム人は筆者を日本人として期待します。外国人には優しいベトナム人材に甘えず、日本人としての強み、自身の得意技に磨きをかけ、ベトナム人材との競争に臨んでほしいとエールを送ります。

果たして経営の現地化は進むか

 90年代後半、世界経済の3つのシナリオというのを目にしました。世界経済は大国のもと一様化するという第一のシナリオ、少数の強国に収れんされるという第二のシナリオ、そして複数の国により混沌化するといったものです。ソ連崩壊後の安定した経済化の当時は、当然のごとく第一シナリオが有力に感...