2021年3月29日月曜日

公平なベトナム人と公正な日本人?

 日越ともに年も新たまり、今年も頭の痛い人事評価の季節がやってきました。結果や評価はともあれ、なんとか自身の期待する給与水準に近づけるため、あれやこれやと理由を積み上げるベトナム人材に時間を取られる評価面談は気の重い年中行事です。そんな評価面談でベトナム人材から良く聞くのが「それはアンフェアだ」というコメントでしょう。そもそもフェアとはなんなのか、日本人とベトナム人ではフェアネスという言葉への理解に違いを感じます。

□ 公平に重きを置くベトナムと公正を重んじる日本?
 似て非なる日本語に公平と公正があり、多くの日本人は両方の意味を込めて“公平”と表現しているように思います。公平・公正ともに翻訳をすると、英語では“Fairness”、ベトナム語では“Công bằng”と訳され、公平と公正の違いは意識されずに、ベトナムでも使われているようです。
 そこで、あらためて公平と公正の違い調べてみると、公平とは“2つ以上のものへの対応や扱いに差がないこと”、公正とは“個々のものを同一の基準に照らして対応や扱いを決めること”とのことです。例えば、サッカーの試合で退場者が出てチーム間に人数差が生まれることはままありますが、「公平」の観点からすれば、こうした状況下での試合は「公平」ではないとも言えましょう。一方でルールに従って退場者が出たのだから、この試合は「公正」に行われたとも言えます。
 どうにも、評価面談での議論は「公平」を主張するベトナム人材と「公正」に評価を行おうとする日本人とのせめぎ合いとなっているようにも思えます。ベトナム人材は、同僚と比べていかに自分が不利な立場にあるか(家が遠い、家族が多いなど)や、自身が勝っているか(より難しい仕事だった、困難な環境も克服した)など同僚と比べた評価の公平性を主張します。一方で日本人(評価者)は、状況がどうあれ結果は結果、評価基準に照らした公正な評価結果を受け入れるように主張します。
 日本でも「三方一両損」といった逸話で語られる「大岡裁き」のように、紛争を丸く収める判断を人情味があって良いとする側面もあります。しかしながら、ケースバイケースで判断が異なる「大岡裁き」は法律家からは正しい裁きではないとの意見が多く、また一般には「車がいなくても赤信号では止まる」といったように時々の状況より規範を重視するのが日本人的な考え方とも言えましょう。
 一方でベトナムでは、「公正さ」よりも個々の事情を斟酌した「公平さ」がより尊重されるように見受けられます。裁判での判決などの例を見ると、麻薬を中国から密輸したベトナム人女性が、学歴が低く、また夫と子供2人を中国に残していることから極刑を免れ、終身刑へ減刑されたなど、日本では考えられない個人の事情に応じた情状酌量がされています。また、労働法にも有給休暇での往復移動日数が2日間を超える場合は3日目以降は追加の有給休暇が処遇されるなど、個人の事情に配慮した規定があります。
 改革開放以前の皆が同じ生活水準であることを良しとする風習の名残か、総中流意識と言われる日本と異なり、格差が前提にあるベトナムだからなのか、定かではありませんが、ルールはあるものの、個別事情に応じて斟酌されるのが好まれるように感じます。

□ 公平と公正を峻別し、「公正」に仕事を回す
 一般にベトナム企業では日本企業以上にルールや罰則が多く、弊社のような教育事業者が研修講座を開催する際にも参加者一人一人が会社と研修契約を結び、欠席やテストの不合格があると罰金を徴収されるなど、非常に厳しい条件の下で仕事をしています。しかしながら実際の運用上はトップの強力な権限のもと、個別事情に応じた采配がされており、ルールは「公正」には運用されていません。むしろ個人の事情やその人の仕事上の価値を斟酌した采配の上手な政治家タイプの管理者が有能な管理者とも言えましょう。
 さりとて、日本人はこのような微妙なさじ加減を運用する能力にはもとより長けていませんし、政治家タイプのベトナム人管理者を雇っても、その人が抜ければ後には混沌が残るだけです。ベトナムの法制度も徐々に判例主義を取り入れ、同一事案は同一の刑で処するように変わりつつある状況を鑑みれば、時間が解決していく問題にも思えます。
 勤続・経験年数で処遇するのが公平と考えるベトナムの伝統的な考えはむしろ排し、社会や人はもとより不公平なもので、どのような状況下にあれ公正に同じルールのもとで競争をしていくのが市場経済下での民間企業のあり方だと徹底していく必要があるのかも知れません。 ともすれば、意味を曖昧にしたまま使ってしまいがちな言葉の一つが「公平と公正」と思います。受け止められ方が異なることを前提に、あえて「公平」という言葉は使わず、ルールや標準をベースに仕事を回す「公正さ」を意図的に流布していく必要があるやも知れません。

2021年3月22日月曜日

果たしてベトナム人材の離職率は下がるのか

 このところ、「ベトナム人材の離職を抑えるには」のような題のセミナーをよく見かけます。弊社にても昨年は数名が退社し、せっかく育ってきた人材が辞めていくのは惜しいものです。しかしながら、「結婚を機に主人の職場に近いところに移る」「両親の体調が悪く、介護しなければならない」「海外で働くのが夢で仕事が見つかった」など、むしろ手を振って送り出したい離職が多く、果たして離職率は抑えられるものなのか、首をかしげる部分もあります。

□ 日本は勤続年数世界一の国

 筆者の経験では、組立て中心の製造業で3~5%、加工や熱・匂いなどの比較的重労働な職場で8%程度が一般的な離職率のように感じます。入社して間もない人が辞めることが多いですが、年間では概ね2割は人が入れ替わるのがベトナムと言えましょう。
 こうした状況から日本との比較で「ベトナムではすぐに人が辞めるんでしょ」というような声もよく耳にします。これはその通りなのですが、一方で「人がなかなか辞めないのは日本だけです」という日本の特殊性にも目を向けたいと思います。
 2013年の厚生労働省の調査によれば、日本は25~54歳の男性のうち、5年以上勤務している人は全体の70%を超え、OECD加盟国の中で1位です。一般にも日本人は「最低5年は務めるべき」と考えるのも頷けます。一方で、5年以上勤務している人の割合が最も低いのが、オーストラリアで50%を割ります。次いで、アメリカやカナダが50%強です。ある民間企業の調査ではベトナムでは3~4年での離職が最も多く22.4%、5年未満では57.5%が離職するようです。タイでは5年未満での離職が54.3%となっています。ベトナムやタイはオーストラリアに似た状況のようです。
 こうしてみると、確かにASEAN途上国の離職率は相対的に高いですが、日本のように7割の人が5年以上同じ会社に勤めるというのはむしろ例外的で、概ね4~5割の人が5年以内に会社を去って行くのは世界的には正常な範囲と捉えるべきでしょう。

□ 使用人的なベトナム人材の就職観

 日本での就職は「就社」とも揶揄されますが、長く務めることを前提とした就職観となっています。しかしながら、日本特有の「就社意識」は世界ではまれで、ベトナムも例外ではなく就社ではなく「就職意識」です。
 町を見渡せば自明の通り、ベトナムでは就労人口の6割以上がいわゆる自営業に従事しており、家族を養える事業を持たない3割程度の人たちがいわば使用人のように自営業者や会社に勤めています(日本は8割)。こうした人たちは、いずれは家族を養う事業を立ち上げるのが花道となり、自ずと腕を磨く就職意識が強くなります。知人のタイ人は「3年経って他社から声がかからない人は優秀ではない人」とも言います。概ね3~5年で、今の会社で学べるものは学んだと考えるのでしょう。
 また、在越の皆さんが口を揃えて言う、ベトナムの「家族第一主義」も離職が多くなる理由の一つでしょう。体を悪くした家族の介護はやむなしとしても、入学・結婚・出産・引っ越しなど、頻繁に生じる家族イベントの結果、家族を支援するために離職を余儀なくされるケースも多くあります。家族の誰かが事業を立ち上げるとなれば、会社はそっちのけで事業に参画するのは家族の一員として最優先の事項です。ちなみに、給与が安いために会社を辞めるというのは良く聞く理由ですが、事情を問い詰めると家族が土地や家を買うためだったり、一緒にアパートを借りていた親類が転居するので家賃が払えないなど、「給与が安い」というより「給与では足りない」というのが実際の理由のことも多くあります。

□ 人の移り変わりを前提に、仕組で会社を動かす
 他人と打ち解けて接せず、ともすれば排他的になってしまうベトナム人材は、冷めたい職場の人間関係やとげとげしい雰囲気が離職の理由となることも良くあります。オープンで活気のある職場つくりを進めることはベトナム人材の定着に一役買います。
 しかしながら、いかに会社を第二の家族にしようとも本当の家族には勝ち目がありません。それでも4~5割の人たちは5年内に会社を去るとの心づもりで、いかに人に依存せずに会社を安定的に運営するかを志向すべきと思います。離職率“0”を目指す会社もたまにみかけますが、離職率が低すぎるのも不健全です。従業員全員が昇進・昇格を続けることはありえませんので、一定の離職率のもと人材の新陳代謝が行われることはむしろ会社の永続に必要となります。 日本企業は仕組化が苦手と言われて久しいですが、ここはベトナム。日本でも仕組み化のもとで成長したマクドナルドやディズニーランドにならい、仕組で動かす会社作りを筆者も目指しています。

2021年3月15日月曜日

組織風土って大切ですよね

豊富な若年労働者や賃金水準の相対的な低さを魅力にベトナムに進出したものの、中国の6割程度とも言われる生産性や未成熟な社会インフラ・人材に悩まされ、ともすれば日々の生産・受注の達成で手一杯となっている会社もあるやも知れません。知らぬ間に、部門間の言い争いが絶えない、新入社員から辞めていくなどの問題が生じ、ご相談いただくことがありますが、問題の根源が組織風土に根ざしていると見られることも良くあります。

□ ほっておけば必然的にベトナム流に
 当たり前のことですが、ここベトナムは日本とは異なります。日本ならば奇異に映るバイクの逆走も、食べカスを床に捨てる習慣も、道を間違っても謝らないタクシーの運転手もここベトナムでは日常的な光景です。
 若い人から徐々に垢抜けて来ていますが、会社の中核を担う30代以降は伝統的な価値観が染みついているケースが多く、当然のことながら特に何もしなければ会社のベトナム人材はベトナム流に振る舞います。

- ベトナム組織は雇われ人の集まり
 ベトナム組織は職務ごとに個別に採用されるケースが一般的で、決まった内部昇進の手続きがないことが多く、上司・部下と言っても日本のように主従・徒弟関係があるわけではなく、役割が違うのみです。従って、部下を育てるといった発想はもとよりなく、部下の失敗も報告はすれど、注意はしません。部下の失敗は部下の失敗、あくまで職務を担当する個人として責任を取ります。

- 他人の畑には踏み込まない
 上記から、各人の役割はむしろ明確に分けることを好み、他人の役割に口を挟むことはご法度です。他部署と関わり合うことを基本的には避けますし、ひとたび衝突が起きると激しくぶつかり合います。また、職務を果たす上では比較的自由に行動でき、職権を活用して血縁者を採用・当用したり、私腹を肥やしたとしても職務が全うされる限りはある程度目をつぶってもらえます。

- ベトナム人が3人で穴に落ちると助からない
 上記はベトナム人の特質を皮肉る冗談ですが、察しのとおり、互いに足を引っ張り合うということです。人との軋轢を嫌うゆえか、目立つこと、競争し合う(ぶつかり合う)ことを避ける伝統的なベトナム人材は水面下で互いの足を引っ張り合います。自身が競争相手より抜きんでるというよりは競争相手の失脚を誘って、それとなく遠慮深げに抜擢されることを好むようです。 こうした特質を理解しているが故に伝統的なベトナム人材は慎重で、私情を明かさず、他人に弱みをみせない、または弱みを指摘されたと感じると徹底的に守りに入ります。
 こうした組織のベトナム流が浸透していても、皆忠実に職務は果たそうとしますので、事業が堅調に進んでいる限りは問題は表面化しません。しかし、大幅な組織の改訂や役割の見直し、組織横断的な取り組みの推進、ベトナム人内派閥が強くなるなどが生じると途端に問題が表面化し、問題が表面化した際には既に手遅れです。風土の要となっているのは一部の従業員ですが、同時に事業の要となっていることも多く、心変わりは期待すべくもなく、また一掃するのは大仕事となります。

□ 組織風土つくりも進めましょう
 ベトナム人材が必ずしもベトナム流風土を好んでいるというわけではなく、疎ましく思っている人も多くいます。しかしながら、意図して風土つくりを進めなければ自然には日本人にとって当たり前の風土はできません。

- 期待する風土・行動を明言する
 ほとんどの会社では経営理念などを掲示していますが、壁の花になっているケースも少なくありません。日本的な価値観が共有されない中で「単語」だけが共有されても、記憶にとどまらないだけならまだしも誤解を生じるケースもあります。「人は財産」といった標語も「だから僕ら従業員は大切にされるべきだ」と解されたりもします。
 面倒ですが、重要な「ことば」については、その由来や意味、目的などをできるだけ具体的に説明することをお勧めします。「上司の指導を吸収し、自身の顧客価値を高める」など、できればそれぞれの「ことば」が期待する行動を具体的に落し込み、社の行動規範とすることが好ましいです。

- 日本人が手本となる
 日本的な風土の伝道師は日本人です。日本に留学した程度のベトナム人材には価値観の伝道は期待できません。日本人は自らが襟を正し、身を引き締めるとともに、「おはよう、お疲れ様」の挨拶、ゴミを拾う、否定せずに聞く、要点を始めに話すなど、ベトナム人材にも見習ってほしい行動をややおおげさにも取って欲しいと思います。会議で発言をしない、問題に正面から取り組まないなど、ベトナム人材がすぐにも真似をしそうな振る舞いは厳に慎むべきでしょう。

- 風土を根付かせる活動を仕組み化する
 経理理念の流布を委員会活動として推進されている会社もあります。人材のありたい姿をベースに、風土を築き高める活動をベトナム人材が主体となって推進するものです。ともすればチームビルディングを目的とした社員旅行も「慰安旅行」と捉えられがちですし、成長を期待する社内研修も「福利厚生」と捉えたりします。各活動の目的を十分に共有して進めましょう。

2021年3月8日月曜日

ベトナム人材の育成にソフトインフラの輸出を

 某国の国をあげた経済覇権の影響も受けてか、日本でも国をあげたインフラ輸出の勢いが増しているようです。途上国支援と言えば人材育成の面では弊社の事業とも関係が深く、日本の途上国支援の流れが変わるなかで人材育成支援のあり方について筆者なりに考えてみたいと思います。

□ 箱もの支援からソフト支援、そしてインフラ輸出へ
 かつては箱もの支援と揶揄され顔の見えないODAと言われた日本の途上国支援ですが、箱でだめならソフトでということか、専門家や技術者の派遣といった「人を送る」支援へと変わり、ここ数年では民間企業の振興も見据えた原子力発電所や新幹線といったインフラ輸出に注目が集まっている感があります。
 ベトナムでも裾野産業育成から工業国化支援と紆余曲折を経ながら、日本の途上国支援の在り方への変化に伴い、原子力発電所や高速鉄道、製油所、輸出入管理といった社会インフラの輸出に傾倒しつつあるように見えます。

□ 金額の多寡ではなく、絆な作りへの途上国支援
 911テロ以降、混迷を増す世界では、各国の思惑や価値観が入り混じったイデオロギー衝突が各地で起きています。東西冷戦下のパワーバランスが崩れた今日では、先進国と新興国が自らの主張を正当化するための票集めの道具として途上国支援を活用している側面も無視できません。
 このため、これまでの途上国支援は、その金額の大小で評価されることが通例でしたが、これからは対象国とのつながりがどれだけ深まったか、持続的なつながりができたかに変わっていくことでしょう。
 この点で新幹線などの日本のインフラの輸出は、単にレールや車両といった従来型の箱もの支援を超えて、広く運営管理に関わる支援を行うことで、時間厳守や共同作業といった日本の価値観である「和」を輸出し、末永い支援対象国との絆を築く役割を担うことが期待されていると思います。幸いベトナムでは「日本式」が比較的受け入れられやすい土壌もあり、互いの普遍的価値観を共有することで「金の切れ目が縁の切れ目」とならないベトナムとの付き合いが続くことを期待します。

□ 求められるソフトインフラの輸出と民間企業活用
 一方で、「人を送るのであれば箱もの批判は受けない」とも思われるような支援や、民間企業と重複する事業を支援団体自らが行おうとする支援例もいまだに見られます。上記のように途上国支援の意義や役割が変貌する中で、数名の専門家派遣は事前調査は別にして絆の構築も個人レベルにとどまり、国対国の絆作りにはあまりに非力です。また民間企業でもできるような事業を支援団体が実施したところで、多額の費用を投じる割には絆作りができる人数規模に限界があり、日本びいきのベトナム人だけが知る仲間内の組織になってしまいがちです。
 「国家100年の計は人にあり」とも言われますが、絆作りに向けた人材育成では価値観を共有する「人が育つ環境つくり」が重要です。ベトナムの学校で日本語を第1外国語にする取り組みも進んでいますが、語学にとどまらず、日本では当たり前の生徒による清掃や部活動、生徒による給食の配布、運動会や学芸会、高校総体のような活動も絆作りと価値観の共有に向けて検討に値すると思います。また、「人が育つ環境つくり」に向けたソフトインフラとしては、他にも教育制度や公的機関の採用・人事考課、公的研究開発制度など、法整備や税制度など既に支援が一部進められている分野に劣らず、検討すべき対象分野があります。
 ベトナムも中所得国入りを果たし、直近では弊社以外にも多くのサービス企業がベトナム進出を進めています。日系企業のベトナム進出を促進し、またベトナムとの持続的な絆な構築に向けても、日本政府にはベトナムへのソフトインフラ輸出にも目を向け、また在越の日系民間サービス企業の有効活用を視野に入れてもらえればと思います。

2021年3月1日月曜日

ベトナム人材の分析力を高める

 問題発生時の対策が思いつき的、行き当たりばったりといった課題はベトナム共通のものと思われ、弊社でも問題解決講座やQCストーリ講座といった研修講座を通じて課題の解消に努めています。しかしながら、研修講座後に浮き彫りになるのが、特に現状分析・原因分析についての「分析力の強化」という新たな課題です。

□ よく見られる分析力強化の課題

 「なぜなぜ分析」は、日本人でも正しく行うのは難しいとも言われますが、他人の納得が求められる発言機会の少ないベトナム人材は、納得に向けた根拠集めともなる分析作業の経験が浅く、以下のような分析結果となるケースがよく窺えます。

- 対策ありきの分析
 分析は仮説を持って行うのが効率的ですので、問題や原因を想定しておくことは大切ですが、分析の結果を「決まりがないため」など、「…がないため」と識別することがよくあります。こうした問題・原因識別の場合には、自ずと「決まりを作る」が対策となってしまいます。

- 主観的な分析
 「現場作業者が作業手順に従わなかったから」など主観的な分析結果も良く見られます。こうした分析は管理・監督者の視点で分析しており、作業当事者の視点となっていないと良く指摘します。作業者自身は「手順に沿わない」ことを目的に作業をしているわけではないため、分析にあたっては作業者の視点から、なぜ・どのように手順と異なる作業をしたのかを把握する必要があります。

- 浅薄な分析
 「作業者が部品の組み付けを間違ったから不良が起きた」など、「なぜ間違ったのか」に踏み込まず対策を提起してしまうケースです。「間違わないように教育する」など提起される対策は暫定対策にとどまり、問題の再発防止につながる恒久対策が打たれません。

□ ベトナム人材の分析力強化
 上記のような課題は概ね各社で共通しており、分析作業時の共通ルールとして基準化することにより、分析結果の間違い探しは比較的容易にできるようになります。

- 「…ない(Khong)」「まだ…(Chua)」を使わない
 「…ない。まだ…」を使うと、実態の分析ではなく、期待(…があったら)の分析となってしまうため、使用を禁止します。また、なぜなぜ分析に際して「…ない。まだ…」を使うと、「なぜ決まりがなかったのか」といったように「なぜ」の問いかけが問題の解決(不良の削減など)と異なる方向に向かってしまいます。「...ない。まだ…」を使わず、どのように問題が発生したのか実態に即して具体的に表すよう指導します。

- 問題発生のメカニズムを明らかにする
 機械故障などはわかり易い例ですが、各パーツがどのように作用して故障に至ったのか、そのメカニズムを明らかにするよう指導します。人間系や手法系の問題でも同様に、「納品時間間際で慌てて作業を行ったため、一つの手順を漏らした」など作業間違い発生のメカニズムを解明することは可能です。
 個人的な「理由」を離れて客観的な「原因」を把握することが難しいところです。

- 事象ではなく、問題に対してなぜを問う
 「事象系の問題」と「原因系の問題」とも言いますが、多くの問題は「発生した悪事象:不良品が検出された」と「解決すべき問題:誤った部品を組み付けた」に切り分けられます。正しくなぜなぜを行えば、事象系問題から出発しても根本原因にたどり着けますが、道のりが長いため、浅薄な分析結果となりがちです。問題事象にとらわれることなく、解決すべき問題を明確にした上で分析に取り組むことが望まれます。

□ 改めて現場力強化の必要性を再認識する
 上記のような分析力強化のポイントは説明すれば皆さん理解できます。しかしながら、同時にそのような客観的な原因を見つけることはすごく難しい。という声も良く聞きます。なぜ難しいのか思い悩んでいたところ、ある経営者の方から、「現場に張り付いている管理者の報告書はわかりやすい」とのコメントをいただき、はたと気づきました。
 皆さん問題発生のメカニズムを明らかにしなければならないことは理解できるものの、現場で作業者がどのように作業を、どのような気持ちで進めているのか知らないため、なぜなぜへの答えを持っていないのではということです。
 ベトナムでは現場たたき上げの管理者は少数派にて、大卒者は始めから管理者や間接業務担当者であることが少なくありません。そうすると、現場を知らないまま高度な問題解決を期待される中核管理者に配置されてしまうこともあるわけです。
 現実に根付いた分析を進めるうえで、あらためて管理者の現場力の強化が期待されます。

2021年2月22日月曜日

ベトナム人材の論理思考を鍛える

 本年も弊社では「論理的思考」の公開研修講座を開催し、例年同様に盛況でした。また、同業他社にても論理的思考をうたった研修講座をみかける機会は多く、ベトナム人材の論理思考に関する課題認識の高さがうかがえます。日本で論理思考というと、ロジックツリーやMECE(Mutually Exclusive Collectively Exhaustive)などのツールを教えるのが一般的ですが、ベトナム人材の論理思考はそうした高度なツールを活用する以前の課題のように感じます。

□ 聞き手の理解、納得を得る場面で論理性は求められるが。。。
 弊社の論理思考講座の冒頭では、「問題報告の目的はなんですか?」と問いかけます。すると、「問題状況を共有するため」や「問題を解決するため」といった回答がよく返ってきます。
 上意下達のトップダウンが一般的なベトナムでは、問われれば意見は言うが、意見を採用するかどうかは上司の判断といった発想が強いようです。同僚の意見に耳を傾けず一方的に発言するだけといったように、会議でも同様の状況がうかがえます。採決は議長の役割であって、参加者は各々の意見を発言するのみといった感じです。従って、他参加者の意見を汲んで建設的に議論する、皆の意見を総合して結論を導く、聞き手の合意を得る、納得させるといった論理性が求められる場面には不慣れですし、そうした機会に恵まれることが少なかったとも言えます。

□ 聞き手に期待する行動で報告の目的を定義し、意思決定のプロセスに沿って情報を伝える。
 こうした背景のもと、ベトナム人材の論理性を鍛えるには、高度なツールの前に「第3者の理解を得るには」といった初歩的な段階から教育していく必要があります。

- 聞き手に期待する行動で報告の目的を定義する
 第3者の理解、納得を得るために論理性は求められます。従って、まずは報告の目的を聞き手の視点から定義する必要があります。例えば、問題報告の目的は情報の共有ではなく、提案する対策への承認を聞き手(上司)から得ることなど、聞き手に期待する行動で定義するように指導しましょう。

- 聞き手の意思決定に必要な情報を提供する
 「聞き手の理解を深めるために、より多くの情報を提供すべき」といった、誤回答が弊社の講座内テストでは見受けられます。種々雑多な情報が整理されずに報告される、といった課題認識もよく耳にしますが、何でも知っていることはすべて話そうとしてしまのでしょう。聞き手に期待する行動を明確にしたうえで、その行動への意思決定のためにはどんな情報が必要か、必要十分な情報に限定して情報を収集し、伝えるよう指導しましょう。

- 意思決定のプロセスに沿って情報を整理する。
 顧客の購買意思決定についてですが、「認知➡理解➡評価➡判断」といった段階を経て人は意思決定に至るといわれています。認知段階では明確な主題や提案内容が期待され、理解段階ではなぜその提案に至ったのか背景や理由が期待され、評価段階では代替案の比較情報が期待され、これらの段階を踏まえて最終的な判断に至るというものです。聞き手に期待する行動を取るよう意思決定を促すためには、こうした聞き手の意思決定のプロセスに沿って情報を整理・提供するよう指導しましょう。

□ 論理的な報告を型にはめる
 人気を博する「論理思考講座」ですが、課題はそう簡単には解決しません。多くの受講生からは「理屈はわかるが実践は難しい」という声がよく聞かれます。なにぶん他人を説得する、理解を求める機会が少なかったベトナムですから、当たり前に論理的に話ができるようになるには時間と経験が必要です。
 手っ取り早く論理的な報告を促し、また経験を積ませるには、まずは型にはめるのが早道と思います。問題報告書やクレーム対策書などはもとより論理的に構成されていますので、記載要領を含め、可能な限り必要な報告は定型化し、経験の浅い人でもある程度論理的な報告ができるように仕向けるのが良いかと思います。 ベトナム人材の論理的思考は各社共通の関心の高い課題ではありますが、客観的な説明を求められる機会や経験が少なかったことが主因と思われますので、経験を積んでいけば徐々に改善されていきます。

2021年2月15日月曜日

グローバル人材って誰のこと?

 「グローバル人材」という言葉が広く使われるようになって久しいですが、いわゆる「バズワード(定義が曖昧な専門用語)」のため議論が錯綜している感が否めません。ベトナムというローカルで仕事をするようになり、益々「グローバル人材」の議論に対する違和感が増すようになりました。たまさか直近にて「日本はグローバル人材の育成を強化しなければいけない」といった話題に出会い、筆者なりに整理をしてみたいと思い立ちました。

□ グローバル人材って、誰のこと?
 「グローバル人材」に関する議論を散見するに、議論の対象者は様々です。「国際機関で働く日本人」や「日本企業の海外拠点で活躍する日本人」、「多様な国籍からなる部下を率いる日本人」「海外から日本へ留学する外国人」、「帰国子女」、「外国資本の企業で活躍する日本人」、「海外企業との橋渡しができる日本人」「世界的に著名な日本人」など各組織・団体や個人がそれぞれが求めるグローバル人材を定義している状況です。
 さすがにまとめようがなくなったためと思いますが、内閣配下のグローバル人材育成推進委員会における2012年時点での定義は「世界的な競争と共生が進む現代社会において、日本人としてのアイデンティティを持ちながら、広い視野に立って培われる教養と専門性、異なる言語、文化、価値を乗り越えて関係を構築するためのコミュニケーション能力と協調性、新しい価値を創造する能力、次世代までも視野に入れた社会貢献の意識などを持った人間」というスーパー日本人をグローバル人材として定義するに至っています。
 議論が錯綜する中で、「グローバル化に向けて、英語を社内の公用語にする」と短絡的に表明する企業が出てきてしまっているのが悲しい現状です。

□ 企業が求めるのは「企業内グローカル人材」?
 国際化が進む社会の中で様々な視点から国際化に対応できる人材を求める声が高まるのは必然的と思いますが、それらの異なる人材を「グローバル人材」と一括りにしてしまっているのが元凶でしょう。
 一方で、海外(ベトナム)で進出日系企業を相手に活動している筆者としては、企業に最も期待されているのは有能な海外拠点管理者の育成と日本国内の外国人材や海外拠点のローカル人材を社員として受け入れる制度整備と感じます。特に海外拠点管理者については、国際的な視野を持ちながらもアウェイであるローカルの地で現地化・自立化を進める、いわば「企業内グローカル人材」が求められているように思います。
 企業が国際化する中で、中核拠点や研究開発拠点などにて、各国の機能代表者を束ねるリーダとなる日本人材育成の声もありますが、その必要性に駆られる企業はまだ少数のようです。アラン・ラグマン教授の2004年の調査によれば、フォーチュン500社のうち地域別売り上げのわかる350社を対象に調査をしたところ、北米・欧州・アジアの各地域にて、自地域の売り上げが5割以下、他の2地域からの売り上げがそれぞれ2割以上ある会社は9社しかなかったそうです。また、2008年に同調査をフォーチュン500社に名を連ねる日系企業64社に対して行ったところ、3社しかなかったとあります。

□ 企業内グローカル人材の要件
 先のグローバル人材育成推進会議によれば、グローバル人材に求められる要素は「I:語学力・コミュニケーション能力」「II:主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感」「III:異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー」だそうです。「日本人としてのアイデンティティ」は比較的特長的と思われますが、他は日本国内でも同様に求められる要素に感じます。日本で活躍できない人材が海外で花開くことはまれで、やはり海外でも日本でも求められる要素に大きな違いはないものと思います。
 ある方から、「何を食べても腹を壊さないことと、ストレスに強い事が駐在員の条件」という話を伺い、ごもっともと思いました。筆者が付け加えるならば、1.(英語よりも)現地の言葉や文化を学ぶこと、2.自社の仕事の仕方や価値観をまったく無知の人に対して論理的に説明できること、3.ローカル人材に賞賛される一芸に秀でることでしょうか。 日本の国際化についてはこれからも議論が続くものと思いますが、的を絞った議論がされていくことを期待します。

2021年2月8日月曜日

チームワークは風通しの良い職場作りから

 

 部門間で問題を押し付け合う。人の意見に耳を貸さない。など、ベトナム人材間のチームワークは良く耳にする各社共通の課題です。震災下でも列を乱さない思いやりと気配りの国日本は、世界から称賛されるほどのチームワーク先進国と言えましょう。チームワーク先進国の日本からすれば、ベトナムが特にチームワークが苦手とは言えませんが、ベトナムの歴史や文化を振り返ると、この問題の根深さが伺えます。

□ 他人の畑に踏み込まないのがベトナム流
 弊社でのチームワーク講座にて受講者から「頼まれてもいないのに、人の仕事に口をだすのは失礼」という声を聞き、なるほどと感じました。確かに依頼すれば比較的快く従ってくれるベトナム人材ですが、会議後のコップの片付けなど「それは総務の仕事ですから」とわざわざ総務に電話を掛ける様子も見かけます。
 また、社内のチームワーク課題の解決にあたっても、「各人の役割をより明確にすべき」という声が聞かれ、おいおいそれは個人プレーの守備範囲を広げるだけだろ、とコメントすることもあります。
 かつて「藩が違えば国が違うのも同じ」と言っていた日本人が自らを「日本人」と意識し始めたのは明治以降とも言われます。中国の支配・相次ぐ統治者の交代・南北の分裂を通じて、村(一族)が社会の中心となったベトナムが国としての形を整えたのは日本が明治を迎えた時代から100年後のことです。
 近頃の大学新卒の社員などを見ていると、比較的うちとけてプライベートのことも隠さず話す人を多く見るようになりました。しかしながら、まだ一般には他人との軋轢を避け、あえて他人には明かさない・立ち入らないといった一族社会の風潮が、特に赤の他人との利害関係が生じる職場や商売関係では見受けられます。

□ チームワーク成立の3要素
 チームワークが成立するためには、①共通の目的、②協働のプロセス、③協働意識が必要と言われます。
 チームワークは心がけの問題と捉えられてしまうことも多いですが、互いの軋轢が強いベトナムでは、「チームで働け」と号令をかけるだけでは、なかなかチームとして機能しません。手間がかかりますが、日本人管理者などが仲介者となって、チームの目的を明示し、役割分担や定例会議の開催、報告手順などのプロセス作りのお膳立てをする必要があります。もしくは、共通の目的策定や協働のプロセス構築の手順を指導し、お膳立てが整うのを見守ることが必要でしょう。
 ここまでは頭の良いベトナム人材はすんなり理解・従ってくれるのですが、やはり困難なのが協働意識作りです。赤の他人とも協働するためには暗黙の信頼関係が前提になければなりません。知らない人でも容易に信じてしまう、世界的にもお人よしな日本人がチームワークを得意とする所以でもありましょう。
 World Value Survey (www. worldvaluessurvey.org)という、各国の価値観の違いの調査が概ね5年ごとに行われ、ベトナムは2006年に参加しています。信頼についての設問にてベトナムとアメリカ(同設問は同時期には日本で実施されていないため)を比較してみると、「家族を信頼するか」という問いでは、ベトナムでは「完全に信頼する」が約88%に対して、アメリカでは約70%、「隣人を信頼するか」という問いでは、ベトナムは約30%に対して、アメリカでは約10%となっています。一方で、「知人を信頼するか」という問いでは、ベトナムでは「あまり信用できない」が約24%、アメリカでは約5%となっています。
 残念ながら国の形ができて日が浅く一族中心社会の残るベトナムでは、他人を当たり前に信頼できる土壌が形勢されるまでにはまだ時間がかかりそうです。

□ 協働意識は風通しの良い職場作りから
 ベトナムに来て以降何度か、「ブルータス、お前もか!」のフレーズが思い出されるような苦い思いも味わった筆者は、従業員面接時の重要なチェック項目に、自身の弱みを打ち明けられるかどうかを上げるようになりました。また、突然の休暇申請の際など「私用」などの曖昧な理由ではなく、「子供が熱を出した」など具体的な理由を教えるようお願いしています。理由がわかれば、会社としても作業時間や内容への配慮ができるのですが、日本人にとってはさして差障りのない家庭の問題も、ベトナム人材によっては極端に話すのを嫌がります。
 優秀で経験豊富でも、仕事とプライベートを明確に分け、他人とかかわることを嫌うベトナム人材がいるのも事実です。即戦力でなくとも、気持ちよく一緒に仕事ができる従業員を採用し、忌憚なく意見を言い合える風土作りが、会社内での信頼の土壌作りにつながると考えます。

2021年2月1日月曜日

報連相は仕組み化で徹底しましょう

 特に日本から赴任された皆さんが驚かれるのが、ベトナム人材の報連相のなさでしょう。資料の翻訳などを依頼しても作業の途中経過の報告がないのは当たり前として、ともすれば翻訳を終えても報告がないことがあります(「終わった?」と聞けば、「終わってますよ」と応えてはくれますが)。

□ 報連相はないのが当たり前
 就労人口の6割超が自営業や家事手伝いに従事するベトナムでは、家業以外の職場に勤めることは、他の家の使用人になるような感覚なのでしょうか。使用人は、いやな顔や口答えなどせず、主人の指示に忠実に応える小間使い型の人材が重宝され、また主人の忠実な僕となることで認められます。
 このような就業感で仕事をしていれば、使用人は作業の遂行(Dower)に徹します。気の利いた使用人であれば問題が発生すれば自ら作業の仕方を変えて作業の目的を果たそうとしますが、作業の進捗状況や問題などの報告は問われなければ応えません。気の利かない使用人は作業の目的も理解せずに言われたまま・理解したままに作業を行い、結果報告にも気が回らないことがあります。

□ 知らないことを前提に報連相の型を教える
 まだまだ指示(主人)⇒実行(使用人)の単純な仕事の仕方が主流のベトナムでは、報連相を通じて異なる役割を担う従業員が状況認識を一致させ、各人が自立的ながらも統合的に行動する仕事の仕方は高度であり、また真新しいものでもあります。
 特に若手のベトナム人材は基礎力や吸収力も高いため、新しい高度な仕事の仕方にも比較的早く順応してくれますが、ともあれ知らないことを前提に報連相の目的をはじめとして、報連相の進め方を噛み砕いて教えていく必要があります。

・報連相を5W2Hで教える
 報連相は教えていけば徐々に身について行きますが、報連相の手法の間違い(連絡の相手が外出しているのに机に緊急のメモを残すなど)や報連相の中身の間違い(文具購入の提案はするものの、値段を確認していないなど)は散見されます。報連相はTPO(Time, Place, Occasion)に合わせた手法の5W2Hと中身の5W2Hで教育していきたいものです。

・報連相の手法の5W2H
What: 何について報連相するのか? 例)担当作業の進捗状況を報告する
Who: 誰が、誰に報連相するのか? 例)上司並びに作業に関連する人たちへ報告する
When: どのタイミングで報連相するのか? 例)月曜日の朝に報告する
Where: どこで報連相するのか? 例)進捗会議にて報告する
Why: 報連相の目的(期待する行動)は何か? 例)自身の進捗による関係者への影響を諮る
How: どんな手段を使って報連相するのか? 例)報告書を用いて報告する
How often: どんな頻度で報連相するのか? 例)毎週、前週との差がわかるように報告する

・報連相の中身の5W2H
What: 何について? 例)進捗遅延を生じた機械故障について
Who: 誰が? 例)A機械が
When: いつ? 例)2016年6月10日に
Where: どこで? 例)組み立て工場のBラインにて
Why: なぜ? 例)モータの焼きつきにより
How: どのように? 例)煙を発して停止した
How much: どれだけ? 例)モータ交換と修理のため3時間作業が停止

□ 報連相を仕組み化して徹底する
 日ごろ日本人管理者と直接接する機会の多いベトナム人材に対しては、報連相を直接指導することも可能ですが、言葉が通じずましてや大所帯の会社では、報連相の指導も十分には行き届きません。
 そこで、特に規模の大きな会社においては、報連相を仕組み化し、意味や目的は徐々に理解するとしてもまずは形を整え、業務に支障をきたさないような工夫をお勧めします。
 製造業では比較的仕組み化が既に進んでいるかと思いますが、電話の受付表やトラブル報告書、問題解決報告書、クレーム報告書、進捗報告書、休暇願いなど、報連相を必要とするケース毎に内容や記載要領、回付ルートも記載したフォーマットを定型化し、業務手続きとして規定することにより、誰もがある程度の報連相品質を保てるようにできます。

 ある程度報連相が浸透しても、やはり難しいのが自身の家庭状況が関わる報連相と、他人の間違いを指摘する報連相でしょうか。突然の休みや離職の際は「私用で。。。」などの理由で、なかなか実情を語ってはくれません。また、他人を非難することになるような報連相は逆恨みを恐れてなかなかできないようです。公私の隔てない報連相を実現するには、まだまだ時間がかかりそうです。

2021年1月25日月曜日

マナーを高めてルールを減らす

 立ち上げられて間もない会社がまず苦労するのが社内でのルールの徹底ではないでしょうか。バイクは道路を逆走する、レストランではゴミを床に捨てるなど日系企業ではあるまじきルール違反が言わば社会の常識ともなっているベトナムでは、ルールを徹底することも一筋縄では行きません。

□ 上に政策あれば、下に対策あり」
 「上に政策あれば、下に対策あり」は中国で言われる事柄ですが、こうした考え方はベトナムでも当てはまるように思われます。交通事故を少なくするためのヘルメット規制も、ドライバー達は自分達の自由を束縛するものとして、品質基準を満たさない安価なヘルメットをかぶって違反を回避します。
 支配層がころころと変わってきた歴史を経て、一族が社会の基盤となっているベトナムでは、政府の政策は天から降ってくる押し付けごとと受け取られてしまうのでしょう。会社のルールについてもまたしかりです。

□ ルールの目的を解説し、共有する
 社内ルールの展開をベトナム人担当者が行うケースが多いですが、ともすればルールの説明にとどまり、なぜそのルールが必要なのか、目的が説明されていないケースが散見されます。もとより、一般的なベトナムでの統制管理の仕方は、「ルールを発布して、守れなければ罰則を厳しくする。ルールを守るか否かは各個人の責任。」というものです。
 まずはルールが各人を縛り付ける「会社のためのもの」ではなく、従業員が安全・快適に職場で協働するための「従業員のためのもの」であることを前提に、各ルールの目的を解説してあげる必要があります。「食後に楊枝を床に捨てない」など、なぜこうしたルールが従業員のために必要なのか、説明できないベトナム人担当者もいます。

□ ベトナムの現状にそぐわないルールの設定は避ける
 日本での常識から、ままベトナムの実態にそぐわないルールが設定されているケースも見受けられます。
 通勤時の靴の着用など、バイク通勤での安全を鑑みたルールであることは理解できるのですが、ベトナムの高温多湿な気候や突然のスコールなどを考えると、現実的には従業員に苦痛を強いるルールとなってしまうこともあります。現実との折り合いを考えてルールを設定・工夫をする必要があります。

□ マナーを高めてルールを減らす
 ルール違反が常習化する人を排除する目的では、イエローカードの発行など違反の実績を記録しておくことは必須ですが、ルール設定の目的は違反者を罰することではなく、皆がルールを守れるようにすることであることを忘れてはいけません。
 ルール違反者へ対処するとともに、好マナーの事例を表彰するなど、思いやりや気づきを高める施策を手がけたいものです。
 また、ルールは会社が決めるもので、従えなければ従業員は退社すべきものとも受け取られがちです。しかしながら、個々の違反事例を分析すれば、ルールの改変により、従いやすいルールにすることは可能なものです。
 組合や安全・倫理委員会などを通じて、守りにくいルールの改善提案を促すのは、従業員の自主性や改善力を養う上でも効果的と思います。

 弊社が請け負う社内講座では、受講者が自発的に遅刻への罰金を課すことがあります(講座後のパーティの原資となる)。こうして自発的に設定したルールは守られやすいですし、違反をしても後腐れがありません。従業員がより良い職場作りを目指して自主的にルールを決められるようになることが理想と思います。

果たして経営の現地化は進むか

 90年代後半、世界経済の3つのシナリオというのを目にしました。世界経済は大国のもと一様化するという第一のシナリオ、少数の強国に収れんされるという第二のシナリオ、そして複数の国により混沌化するといったものです。ソ連崩壊後の安定した経済化の当時は、当然のごとく第一シナリオが有力に感...