人材育成という事業ゆえ、弊社の事業は日本政府のベトナム支援策とも重なることが多く、日ごろ日本政府の支援の動きについても目を配っています。今回は日系企業に勤めるベトナム人従業員の育成という観点からは少し離れるのですが、筆者なりのこれからのベトナム支援について私見を述べたいと思います。
□より戦略的な支援への変化
ODAといえば、水道もない村で井戸を掘ったり、学校を作ったりと途上国の人道支援的なイメージがありましたが、昨今のODAの位置づけは変わってきているようです。
近隣国が官民一体で途上国市場の開拓に進んでいる状況も受けてか、本来であれば中所得国入りしたベトナムではODA額は漸減しても良いところが、むしろ原子力発電所建設や空港建設、高速鉄道導入など、より積極的に戦略的パートナとしての位置を進化すべく支援が強化されているように見受けられます。
□ASEAN統合とのベトナムの展望
当初は、「裾野産業育成」という題目のもと、より日系企業の進出を促進するよう、進出日系企業へのサプライヤとしてベトナム企業を育成するよう支援が進められてきました。しかしながら、観察するにベトナム政府は裾野産業育成の必要性は理解するも、ベトナム企業が裾野を担うのではなく、裾野産業に属する日系企業がベトナムにより多く進出することを期待しているように見受けられます。
その後「ベトナム工業化戦略」として、自動車・自動車部品など日本が期待する産業分野も戦略対象産業として指定されるに至りましたが、直近では当地盟主のホアンザーライグループやホアファットグループ、ビンコムグループが相次いで農業への参入を表明するなど、もう一方の戦略対象産業である農水産加工に国内の事業者は目を向けているようです。
最近でこそ継続して黒字化が果たせていますが、ベトナムは慢性的な貿易赤字国です。輸出加工型の外国企業の進出でかろうじて黒字化を果たせていますが、基幹産業である縫製については糸や布はほとんど輸入に頼っており、農薬などもほとんど輸入です。付加価値の低い加工分野を国内で行い、価値の高い原材料をほとんど輸入に頼っている産業構造の課題はベトナム政府も認識するところです。
そんな中、ASEAN経済統合も既に開始され、まったなしの状況下では自国の基幹産業である農林水産加工を強化し、付加価値の高い原材料分野を取り込もうとするのは自然な流れと感じます。一方で、電子・造船(ベトナム国営企業は経営破たん)自動車などの分野はもとより国内基盤が弱く、外国企業の更なる進出により強化したいとの期待が透けて見えます。
□ベトナム支援に向けた私見
先記のようなベトナム経済の展望が正しいとすれば、日本のベトナムへの支援のあり方もおのずと見えてきます。
・ ベトナム基幹産業への支援
ベトナムの農林水産加工業は家族経営的な零細事業者が多く、協同組合や流通網も十分に機能していませんし、技術的にも日本の近代的な農業とは比べようもありません。既に一部支援は始まっていますが、技術協力や日本の協同組合、流通の仕組みなど、まだまだ支援分野には事欠きません。
・ インフラ構築支援
産業の高度化に向けて、港湾や高速道路などの経済インフラの高度化は併せて必要です。特にこれまでは箱物の建築が中心でしたが、地下鉄の安全な運行管理や質の高いサービスの提供に向けて人材を含めたソフト面の支援が必要になります。
・ ASEAN経済圏を見据えた日系企業の進出促進
日本の裾野産業がベトナムへの進出に二の足を踏むのは、ベトナムだけでは十分な需要がなく採算が合わないから、とういこともあります。こうした企業もASEAN域内の関税撤廃によりASEAN全域の需要のもとで進出を検討することができるようになりつつあります。
一方で、タイは右ハンドルでベトナムは左ハンドルのため、陸送ルートである東西回廊はできたものの、国境を越えるたびに輸送車を積み替えなければならないなどお粗末な話も聞こえてきます。こうした分野でもASEAN経済圏のメリットを日系企業が十分に取り込めるための支援も日本政府には期待されます。
ベトナム人材育成の支援も、上記の対象分野に沿って見極めることができます。 電話の進化の歴史を知らず、突然携帯電話が町に溢れて使い方に慣れていないのがベトナムの現状です。現代的な技術や設備の導入ともに、受け皿としての人材の育成が期待されます。
2020年11月9日月曜日
日本のベトナム人材育成への貢献を考える
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