2020年12月21日月曜日

拠点経営が見える化されていますか?

 長くお付き合いさせていただいた現法の社長が帰任されました。帰任の際に「ここ(ベトナム)では自分が決めればすぐに物事が進むのに、日本に帰れば簡単なことでも稟議だ役員会だと2、3ヶ月かかることを思うと気が重いよ」とおっしゃっていたのが、記憶に残ります。生き生きと現法経営に手腕を振るう経営者がここにもいたと、うれしく感じるとともに、社長が経営を一手に握る現法経営のあり方に一抹の不安も覚えます。

□社長まかせの現法経営リスク
 各社の人材育成のご相談に乗らせていただくにあたり、経営者の方の熱い思いにふれる機会もよくあります。
 「中国ではなしえなかった理想の工場をベトナムでは実現したい」
 「3、4年後には自分も交代になる。次社長が来ても経営の根幹が揺るがないように社長と対等に議論できる管理者を育てたい」。
 心に刻まれるような思いのある経営者の下での人材育成は必ずや成功します。
 一方で半ば従業員にのっとられてしまったかのような会社からのご相談もままいただきます。
 「前社長が従業員に自由にさせていたところ、業務の全てを従業員が握ってしまい、方向転換をしようにも言うことを聞いてくれなくなってしまった」
 「キーパーソンの従業員からの紹介を皮切りに近親者採用を認めたところ、社内の近親者同士が結託するようになった」
 「『何かするなら、まず私に相談してください。そうしないと何が起きても知りませんよ。』と幹部従業員に諭された」
 現法経営が社長の手腕にかかっていることは当然のことです。また、海外現法で手腕を活かすことは、日本人管理者の経営力を伸ばす格好の機会でもあります。しかしながら、現法経営の成否が社長個人に委ねられている場合には、同時に大きなリスクを抱えることにもなります。外見では本社の期待に応える業績を達成していても、実は社内に賄賂が横行し、親分株の従業員が会社を牛耳り、赴任された日本人を手のひらの上で転がしているような状況も生じえます。

□「職業は買う」がベトナム流
 2012年頃には、「公務員の採用に賄賂が横行しており、1件あたり少なくとも1億ドンが謝礼として支払われている」という告発も報道されました。外資系企業に勤める従業員の間では少しずつ薄れつつある考え方ではありますが、伝統的な考え方の人たち、また国営企業を目指す人たちにとっては、人脈がなければ「職業は買う」というのが常識として残っています。そして、職に就いても特に公務員は薄給が当たり前ですので、必然的に立場を利用した副業をすることとなります。労働法でも本業に支障をきたさない限りは副業を認めることが明文化されています。
 就労人口の6割超を自営セクターが占めるベトナムでは、まだまだ組織への帰属意識は高くはありません。家族を十分に養える規模の自営業を持たない個人が会社という組織に参加し、自身の商売を会社内に展開し家族に貢献するといったような就労イメージでしょうか。自身の商売にも会社業績にも悪影響を与えるような不正はしませんし、自身の商売の発展につながる会社業績への貢献は進んでします。一方で、自身の商売に不利になる組織変更や方針転換には反対しますし、会社が窮した場合には、沈みかけた船からは一目散に退散します。
 日本人としては会社への愛着心や忠誠心を従業員に期待してしまいがちですが、そうしたベトナム人材にめぐり合える確率は日本よりは少ないと想定されたほうが良いかと思います。

□現法経営の見える化は進んでいますか?
 拠点横断での情報交換会、本部主導での拠点横断の品質管理体制、全拠点でのジョブグレードの標準化など、現法経営に横串を指す活動が活発になってきています。ブラックボックスとなりがちな現法経営ですが、こうした活動は現法の業績指標管理のみならず、現法の風土や体質、コア人材の考え方など、広く現法経営の見える化、風通しの良さにつながるのではと考えます。
 筆者が直接かかわる領域は人事関連となりますが、各拠点の人材の育ち具合、離職事由、士気の状況など、現法代表の手を煩わせることなく本社・他拠点が把握できる活動の推進が期待されます。

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