今年も年度替わりの時期を迎え、帰任や赴任の声を多く耳にするようになりました。筆者は帰任などの予定はなく、いよいよ在越15年目を迎えます。親しくなった方とのお別れの時期でもありますが、赴任される方との新たな出会いに巡り合う時期でもあります。今回は、ベトナムというアウェーの地で新たに経営に当たられる、赴任者の方に向けてエールを送りたいと思います。
□ アウェーの地で日本的経営の理念を叫ぶ
洪水のようなバイクの流れや路上に溢れるゴミなどは、ベトナムのような途上国での経験の浅い方にとっては「なんと常識のない国」と呆れざるを得ない光景でしょう。しかしながら、未だに混とんとも見えるベトナムの日常は15年前に比べれば、格段に進歩を遂げています。以前は7割のドライバーは信号を無視していましたが、今は2割程度に減りました。タクシーの運転手も「ありがとう」と「ごめんなさい」が言えるようになっています。15年前は想像もできませんでしたが、他国と変わらずベトナムも時代の流れに沿って変わっていくものも多いのだと実感します。
赴任先としての人気も高まりつつあるベトナムでは、行き届いたサービスアパートに住み、日本語のできる運転手とともに会社に迎い、日系の取引先と商談・日本語のできるスタッフを介して指示を出し、日本料理屋で夕食を取り、週末は日本人の仲間とゴルフをすれば、あたかも日本で仕事をしているような感覚で過ごすことも可能となってきました。ところが、うっかり気を緩めていると、信頼するスタッフの突然の離職や、役所からの理不尽な要求、親玉従業員による会社の乗っ取りなど、ここはベトナムであると、はたと目を覚まされる仕打ちに会うこととなります。
良く耳にするのが、「こんな事は、日本ではありえない」という言葉です。当然ですがここはベトナムです。在越邦人は1万5千人ともいわれますが、ベトナム人口の9千4百万人に比べれば、日本人は6,200人に1人。日本で言えば、町で唯一の日本人といったマイノリティです。また、ベトナムの労働人口は5千4百万人ともいわれますが、外資系企業に勤めている人は8%程度ですので、5千万人は外国企業での仕事の仕方など知る由もありません。
アウェーの地で経営に当たっているという意識は常に念頭に置いておきたいところです。
□ 変わっていくもの、変えていくもの
第3次インドシナ戦争を含めれば、ベトナムが戦争から解放されたのは1990年以降。現在の30代以前のベトナム人材が戦後世代となります。確かに最近の新卒者は考え方もあか抜け、ベトナムの豊かな成長を期待させます。しかしながら、こうした人たちが世相の中心となり、先進国と同様の価値観が当たり前となるには、まだあと30~40年は必要でしょう。
社会の発展とともに人も変わっていくベトナムですが、そうは言っても40年は待っていられません。積極的にベトナム人材を変えていかないと、伝統的なベトナム流の価値観・振る舞いに飲み込まれてしまいます。
特に根深いのが、家族第一の価値観に基づく就業感や対人関係から生じるトラブルでしょう。ベトナム人材が日本のような会社人間になることはあり得ませんが、組織の一員として使命感を持って働くように方向付けをしていくことは可能です。
- 会社は従業員の協働の場
ベトナムでは、国営企業も含めて親族経営の企業が多く、一般の従業員は経営者の指示に従って手足として働く使用人のような就労意識を持っているケースが多くあります。
積極的に経営に参加し、主体的に発案・行動して協働体としての企業価値を高める従業員への期待は明言したいところです。
- チームで働く
ベトナムでは、上意下達の指揮命令系統のもと、職務を細分化して各人が個人として仕事をするのが一般的です。
組織において優秀な人とは、個人として優秀なのではなく、チームを成功に導ける人だという期待も明言したいものです。
- 仕組みで仕事をする
世界的にも稀有な日本の終身雇用を前提とした仕事の仕方は、属人的な業務運営を導きがちです。ベトナムは他国と変わらず、人材は流動します。流動するベトナム人材は、後任の苦労など慮るはずもなく、経験や知見を雲散霧消にして職場を去ります。
人に依存せず、仕組みで仕事をする体制作りを進めましょう。仕事を手順に落とし込む、情報を集約するなど、個人の経験や知見を会社の財産として蓄える作業を日常業務に織り込んでいきたいものです。
他にも、新しく赴任された皆様には日々新鮮な驚きがあろうかと思います。人は変われど安定して成長する会社は、朱に交われば赤くなる風土が確立されている会社のようです。赴任ミッションだけでも大変な日々と思いますが、長期的な拠点の成長に向けて、日本的経営の理念を叫び続けていただきたいとエールを送ります。
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