海外拠点の現地化・自立化は日本企業の海外拠点経営における共通の指針ともなっていますが、こと人材の現地化・自立化に向けては、いわゆる方法論といわれるまでに手法が体系化されておらず、ともすれば掛け声倒れとなっている会社も見られます。筆者のベトナムにおけるベトナム人材育成の経験や各社経営者との議論でえられた知見から、人材の現地化・自立化に向けた手法論を少しずつ整理していきたいと思います。
□ 現地化・自立化とは自社らしさや強みを海外で活かすこと
現地化とは「現地拠点で日々のPQCD(量・質・コスト・納期)が保証できること」、自立化とは「現地拠点の将来に向けた施策を拠点独自に企画・立案・展開できること」とも言われます。
多くの場合、人材の現地化の指標として、拠点の経営職に当用されているローカル人材の割合が用いられていますが、海外企業買収による進出の場合には現地化率は100%からスタートすることとなり、あまり意味のある指標とはなりません。むしろ買収後のシナジーの創出により、どれほど被買収企業の価値が高まったかを現地化の指標とし、シナジーを活かした独自の事業展開ができるようになったかを自立化の指標として見るべきでしょう。
もとより単にベトナムに生産ないし販売の機能展開をするだけであれば、業務委託や資本参加などの手段にて現地化や自立化に頭を悩ますことは避けられます。自社の子会社としてベトナムに拠点を構え、赴任者を配置するのは、やはり自社らしさや強みを活かしたベトナム拠点の成長と発展を進めたいという意図があるからでしょう。この意図に沿えば、現地化の指標は、自社らしさ・強みがどの程度ベトナム拠点に根付いたか、自立化の指標は自社らしさ・強みを活かした経営がどの程度拠点主体でできるようになったかとなりましょう。
□ アウェーの地で、途上国人材を相手に、赴任期間を紡いで自社らしさや強みを伝える
当該地の言語や習慣に長け、赴任地に永住し、現地価格水準の給与で働いてくれる日本人材が拠点経営の中枢を担ってくれれば自社らしさや強みの海外拠点への移転は比較的容易となります。アメリカなど移民政策に寛容な国の海外進出に際しては、同国で生まれ育ったxx系アメリカ人が海外拠点で活躍している状況も多く見られます。
しかしながら日本においてはそうした海外拠点向きの人材は求めるべくもなく、必然的に現地人材を経営層に至るまで自社らしさや強みの浸透に導いていく必要が生じます。文化や言語の異なるアウェーの地で、技術・能力の未成熟な途上国人材を相手に、短い赴任期間を紡いで人材の現地化・自立化を進めていくことが、日本が抱える現地化・自立化の宿命と言えましょう。
□ 自社らしさや強みを伝える現地化・自立化を進めませんか
ベトナムにおいても3年前ほどよりマネージャ育成の機運が高まり、直近ではGM・役員クラスの職に就くベトナム人も見られるようになりました。とはいえ、弊社にご依頼をいただく管理者向け育成講座も「論理的な分析力・報告力を高めたい」「経営陣の一員であるマネージャとしてのオーナシップを高めたい」など、人材の現地化・自立化が道半ばである様子が窺えます。
一方で講座を実施した結果として、マネージャとの肩書はあるものの実態は日本人管理者の補佐役しか務めておらず、ベトナム人マネージャも「全ての企画・決定は日本人がするので、自分たちは指示に従い実行するのみ」との役割認識が根付いてしまっているケースもまま見られます。
経営人材に足るベトナム人材の育成は、新卒から始めて15年、中途採用に成功しても10年の息の長い取り組みです。日本人の手足としての役割認識がベトナム人に根付いてしまうと、取り戻すのに更に年数を要します。人材の現地化・自立化が息の長い取り組みであるが故にも、とかく単年度の業績目標達成が優先し、後回しにされがちです。ゆっくりとでも着実に自社らしさと強みの普及を進めていければと期待します。
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