2021年2月22日月曜日

ベトナム人材の論理思考を鍛える

 本年も弊社では「論理的思考」の公開研修講座を開催し、例年同様に盛況でした。また、同業他社にても論理的思考をうたった研修講座をみかける機会は多く、ベトナム人材の論理思考に関する課題認識の高さがうかがえます。日本で論理思考というと、ロジックツリーやMECE(Mutually Exclusive Collectively Exhaustive)などのツールを教えるのが一般的ですが、ベトナム人材の論理思考はそうした高度なツールを活用する以前の課題のように感じます。

□ 聞き手の理解、納得を得る場面で論理性は求められるが。。。
 弊社の論理思考講座の冒頭では、「問題報告の目的はなんですか?」と問いかけます。すると、「問題状況を共有するため」や「問題を解決するため」といった回答がよく返ってきます。
 上意下達のトップダウンが一般的なベトナムでは、問われれば意見は言うが、意見を採用するかどうかは上司の判断といった発想が強いようです。同僚の意見に耳を傾けず一方的に発言するだけといったように、会議でも同様の状況がうかがえます。採決は議長の役割であって、参加者は各々の意見を発言するのみといった感じです。従って、他参加者の意見を汲んで建設的に議論する、皆の意見を総合して結論を導く、聞き手の合意を得る、納得させるといった論理性が求められる場面には不慣れですし、そうした機会に恵まれることが少なかったとも言えます。

□ 聞き手に期待する行動で報告の目的を定義し、意思決定のプロセスに沿って情報を伝える。
 こうした背景のもと、ベトナム人材の論理性を鍛えるには、高度なツールの前に「第3者の理解を得るには」といった初歩的な段階から教育していく必要があります。

- 聞き手に期待する行動で報告の目的を定義する
 第3者の理解、納得を得るために論理性は求められます。従って、まずは報告の目的を聞き手の視点から定義する必要があります。例えば、問題報告の目的は情報の共有ではなく、提案する対策への承認を聞き手(上司)から得ることなど、聞き手に期待する行動で定義するように指導しましょう。

- 聞き手の意思決定に必要な情報を提供する
 「聞き手の理解を深めるために、より多くの情報を提供すべき」といった、誤回答が弊社の講座内テストでは見受けられます。種々雑多な情報が整理されずに報告される、といった課題認識もよく耳にしますが、何でも知っていることはすべて話そうとしてしまのでしょう。聞き手に期待する行動を明確にしたうえで、その行動への意思決定のためにはどんな情報が必要か、必要十分な情報に限定して情報を収集し、伝えるよう指導しましょう。

- 意思決定のプロセスに沿って情報を整理する。
 顧客の購買意思決定についてですが、「認知➡理解➡評価➡判断」といった段階を経て人は意思決定に至るといわれています。認知段階では明確な主題や提案内容が期待され、理解段階ではなぜその提案に至ったのか背景や理由が期待され、評価段階では代替案の比較情報が期待され、これらの段階を踏まえて最終的な判断に至るというものです。聞き手に期待する行動を取るよう意思決定を促すためには、こうした聞き手の意思決定のプロセスに沿って情報を整理・提供するよう指導しましょう。

□ 論理的な報告を型にはめる
 人気を博する「論理思考講座」ですが、課題はそう簡単には解決しません。多くの受講生からは「理屈はわかるが実践は難しい」という声がよく聞かれます。なにぶん他人を説得する、理解を求める機会が少なかったベトナムですから、当たり前に論理的に話ができるようになるには時間と経験が必要です。
 手っ取り早く論理的な報告を促し、また経験を積ませるには、まずは型にはめるのが早道と思います。問題報告書やクレーム対策書などはもとより論理的に構成されていますので、記載要領を含め、可能な限り必要な報告は定型化し、経験の浅い人でもある程度論理的な報告ができるように仕向けるのが良いかと思います。 ベトナム人材の論理的思考は各社共通の関心の高い課題ではありますが、客観的な説明を求められる機会や経験が少なかったことが主因と思われますので、経験を積んでいけば徐々に改善されていきます。

2021年2月15日月曜日

グローバル人材って誰のこと?

 「グローバル人材」という言葉が広く使われるようになって久しいですが、いわゆる「バズワード(定義が曖昧な専門用語)」のため議論が錯綜している感が否めません。ベトナムというローカルで仕事をするようになり、益々「グローバル人材」の議論に対する違和感が増すようになりました。たまさか直近にて「日本はグローバル人材の育成を強化しなければいけない」といった話題に出会い、筆者なりに整理をしてみたいと思い立ちました。

□ グローバル人材って、誰のこと?
 「グローバル人材」に関する議論を散見するに、議論の対象者は様々です。「国際機関で働く日本人」や「日本企業の海外拠点で活躍する日本人」、「多様な国籍からなる部下を率いる日本人」「海外から日本へ留学する外国人」、「帰国子女」、「外国資本の企業で活躍する日本人」、「海外企業との橋渡しができる日本人」「世界的に著名な日本人」など各組織・団体や個人がそれぞれが求めるグローバル人材を定義している状況です。
 さすがにまとめようがなくなったためと思いますが、内閣配下のグローバル人材育成推進委員会における2012年時点での定義は「世界的な競争と共生が進む現代社会において、日本人としてのアイデンティティを持ちながら、広い視野に立って培われる教養と専門性、異なる言語、文化、価値を乗り越えて関係を構築するためのコミュニケーション能力と協調性、新しい価値を創造する能力、次世代までも視野に入れた社会貢献の意識などを持った人間」というスーパー日本人をグローバル人材として定義するに至っています。
 議論が錯綜する中で、「グローバル化に向けて、英語を社内の公用語にする」と短絡的に表明する企業が出てきてしまっているのが悲しい現状です。

□ 企業が求めるのは「企業内グローカル人材」?
 国際化が進む社会の中で様々な視点から国際化に対応できる人材を求める声が高まるのは必然的と思いますが、それらの異なる人材を「グローバル人材」と一括りにしてしまっているのが元凶でしょう。
 一方で、海外(ベトナム)で進出日系企業を相手に活動している筆者としては、企業に最も期待されているのは有能な海外拠点管理者の育成と日本国内の外国人材や海外拠点のローカル人材を社員として受け入れる制度整備と感じます。特に海外拠点管理者については、国際的な視野を持ちながらもアウェイであるローカルの地で現地化・自立化を進める、いわば「企業内グローカル人材」が求められているように思います。
 企業が国際化する中で、中核拠点や研究開発拠点などにて、各国の機能代表者を束ねるリーダとなる日本人材育成の声もありますが、その必要性に駆られる企業はまだ少数のようです。アラン・ラグマン教授の2004年の調査によれば、フォーチュン500社のうち地域別売り上げのわかる350社を対象に調査をしたところ、北米・欧州・アジアの各地域にて、自地域の売り上げが5割以下、他の2地域からの売り上げがそれぞれ2割以上ある会社は9社しかなかったそうです。また、2008年に同調査をフォーチュン500社に名を連ねる日系企業64社に対して行ったところ、3社しかなかったとあります。

□ 企業内グローカル人材の要件
 先のグローバル人材育成推進会議によれば、グローバル人材に求められる要素は「I:語学力・コミュニケーション能力」「II:主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感」「III:異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー」だそうです。「日本人としてのアイデンティティ」は比較的特長的と思われますが、他は日本国内でも同様に求められる要素に感じます。日本で活躍できない人材が海外で花開くことはまれで、やはり海外でも日本でも求められる要素に大きな違いはないものと思います。
 ある方から、「何を食べても腹を壊さないことと、ストレスに強い事が駐在員の条件」という話を伺い、ごもっともと思いました。筆者が付け加えるならば、1.(英語よりも)現地の言葉や文化を学ぶこと、2.自社の仕事の仕方や価値観をまったく無知の人に対して論理的に説明できること、3.ローカル人材に賞賛される一芸に秀でることでしょうか。 日本の国際化についてはこれからも議論が続くものと思いますが、的を絞った議論がされていくことを期待します。

2021年2月8日月曜日

チームワークは風通しの良い職場作りから

 

 部門間で問題を押し付け合う。人の意見に耳を貸さない。など、ベトナム人材間のチームワークは良く耳にする各社共通の課題です。震災下でも列を乱さない思いやりと気配りの国日本は、世界から称賛されるほどのチームワーク先進国と言えましょう。チームワーク先進国の日本からすれば、ベトナムが特にチームワークが苦手とは言えませんが、ベトナムの歴史や文化を振り返ると、この問題の根深さが伺えます。

□ 他人の畑に踏み込まないのがベトナム流
 弊社でのチームワーク講座にて受講者から「頼まれてもいないのに、人の仕事に口をだすのは失礼」という声を聞き、なるほどと感じました。確かに依頼すれば比較的快く従ってくれるベトナム人材ですが、会議後のコップの片付けなど「それは総務の仕事ですから」とわざわざ総務に電話を掛ける様子も見かけます。
 また、社内のチームワーク課題の解決にあたっても、「各人の役割をより明確にすべき」という声が聞かれ、おいおいそれは個人プレーの守備範囲を広げるだけだろ、とコメントすることもあります。
 かつて「藩が違えば国が違うのも同じ」と言っていた日本人が自らを「日本人」と意識し始めたのは明治以降とも言われます。中国の支配・相次ぐ統治者の交代・南北の分裂を通じて、村(一族)が社会の中心となったベトナムが国としての形を整えたのは日本が明治を迎えた時代から100年後のことです。
 近頃の大学新卒の社員などを見ていると、比較的うちとけてプライベートのことも隠さず話す人を多く見るようになりました。しかしながら、まだ一般には他人との軋轢を避け、あえて他人には明かさない・立ち入らないといった一族社会の風潮が、特に赤の他人との利害関係が生じる職場や商売関係では見受けられます。

□ チームワーク成立の3要素
 チームワークが成立するためには、①共通の目的、②協働のプロセス、③協働意識が必要と言われます。
 チームワークは心がけの問題と捉えられてしまうことも多いですが、互いの軋轢が強いベトナムでは、「チームで働け」と号令をかけるだけでは、なかなかチームとして機能しません。手間がかかりますが、日本人管理者などが仲介者となって、チームの目的を明示し、役割分担や定例会議の開催、報告手順などのプロセス作りのお膳立てをする必要があります。もしくは、共通の目的策定や協働のプロセス構築の手順を指導し、お膳立てが整うのを見守ることが必要でしょう。
 ここまでは頭の良いベトナム人材はすんなり理解・従ってくれるのですが、やはり困難なのが協働意識作りです。赤の他人とも協働するためには暗黙の信頼関係が前提になければなりません。知らない人でも容易に信じてしまう、世界的にもお人よしな日本人がチームワークを得意とする所以でもありましょう。
 World Value Survey (www. worldvaluessurvey.org)という、各国の価値観の違いの調査が概ね5年ごとに行われ、ベトナムは2006年に参加しています。信頼についての設問にてベトナムとアメリカ(同設問は同時期には日本で実施されていないため)を比較してみると、「家族を信頼するか」という問いでは、ベトナムでは「完全に信頼する」が約88%に対して、アメリカでは約70%、「隣人を信頼するか」という問いでは、ベトナムは約30%に対して、アメリカでは約10%となっています。一方で、「知人を信頼するか」という問いでは、ベトナムでは「あまり信用できない」が約24%、アメリカでは約5%となっています。
 残念ながら国の形ができて日が浅く一族中心社会の残るベトナムでは、他人を当たり前に信頼できる土壌が形勢されるまでにはまだ時間がかかりそうです。

□ 協働意識は風通しの良い職場作りから
 ベトナムに来て以降何度か、「ブルータス、お前もか!」のフレーズが思い出されるような苦い思いも味わった筆者は、従業員面接時の重要なチェック項目に、自身の弱みを打ち明けられるかどうかを上げるようになりました。また、突然の休暇申請の際など「私用」などの曖昧な理由ではなく、「子供が熱を出した」など具体的な理由を教えるようお願いしています。理由がわかれば、会社としても作業時間や内容への配慮ができるのですが、日本人にとってはさして差障りのない家庭の問題も、ベトナム人材によっては極端に話すのを嫌がります。
 優秀で経験豊富でも、仕事とプライベートを明確に分け、他人とかかわることを嫌うベトナム人材がいるのも事実です。即戦力でなくとも、気持ちよく一緒に仕事ができる従業員を採用し、忌憚なく意見を言い合える風土作りが、会社内での信頼の土壌作りにつながると考えます。

2021年2月1日月曜日

報連相は仕組み化で徹底しましょう

 特に日本から赴任された皆さんが驚かれるのが、ベトナム人材の報連相のなさでしょう。資料の翻訳などを依頼しても作業の途中経過の報告がないのは当たり前として、ともすれば翻訳を終えても報告がないことがあります(「終わった?」と聞けば、「終わってますよ」と応えてはくれますが)。

□ 報連相はないのが当たり前
 就労人口の6割超が自営業や家事手伝いに従事するベトナムでは、家業以外の職場に勤めることは、他の家の使用人になるような感覚なのでしょうか。使用人は、いやな顔や口答えなどせず、主人の指示に忠実に応える小間使い型の人材が重宝され、また主人の忠実な僕となることで認められます。
 このような就業感で仕事をしていれば、使用人は作業の遂行(Dower)に徹します。気の利いた使用人であれば問題が発生すれば自ら作業の仕方を変えて作業の目的を果たそうとしますが、作業の進捗状況や問題などの報告は問われなければ応えません。気の利かない使用人は作業の目的も理解せずに言われたまま・理解したままに作業を行い、結果報告にも気が回らないことがあります。

□ 知らないことを前提に報連相の型を教える
 まだまだ指示(主人)⇒実行(使用人)の単純な仕事の仕方が主流のベトナムでは、報連相を通じて異なる役割を担う従業員が状況認識を一致させ、各人が自立的ながらも統合的に行動する仕事の仕方は高度であり、また真新しいものでもあります。
 特に若手のベトナム人材は基礎力や吸収力も高いため、新しい高度な仕事の仕方にも比較的早く順応してくれますが、ともあれ知らないことを前提に報連相の目的をはじめとして、報連相の進め方を噛み砕いて教えていく必要があります。

・報連相を5W2Hで教える
 報連相は教えていけば徐々に身について行きますが、報連相の手法の間違い(連絡の相手が外出しているのに机に緊急のメモを残すなど)や報連相の中身の間違い(文具購入の提案はするものの、値段を確認していないなど)は散見されます。報連相はTPO(Time, Place, Occasion)に合わせた手法の5W2Hと中身の5W2Hで教育していきたいものです。

・報連相の手法の5W2H
What: 何について報連相するのか? 例)担当作業の進捗状況を報告する
Who: 誰が、誰に報連相するのか? 例)上司並びに作業に関連する人たちへ報告する
When: どのタイミングで報連相するのか? 例)月曜日の朝に報告する
Where: どこで報連相するのか? 例)進捗会議にて報告する
Why: 報連相の目的(期待する行動)は何か? 例)自身の進捗による関係者への影響を諮る
How: どんな手段を使って報連相するのか? 例)報告書を用いて報告する
How often: どんな頻度で報連相するのか? 例)毎週、前週との差がわかるように報告する

・報連相の中身の5W2H
What: 何について? 例)進捗遅延を生じた機械故障について
Who: 誰が? 例)A機械が
When: いつ? 例)2016年6月10日に
Where: どこで? 例)組み立て工場のBラインにて
Why: なぜ? 例)モータの焼きつきにより
How: どのように? 例)煙を発して停止した
How much: どれだけ? 例)モータ交換と修理のため3時間作業が停止

□ 報連相を仕組み化して徹底する
 日ごろ日本人管理者と直接接する機会の多いベトナム人材に対しては、報連相を直接指導することも可能ですが、言葉が通じずましてや大所帯の会社では、報連相の指導も十分には行き届きません。
 そこで、特に規模の大きな会社においては、報連相を仕組み化し、意味や目的は徐々に理解するとしてもまずは形を整え、業務に支障をきたさないような工夫をお勧めします。
 製造業では比較的仕組み化が既に進んでいるかと思いますが、電話の受付表やトラブル報告書、問題解決報告書、クレーム報告書、進捗報告書、休暇願いなど、報連相を必要とするケース毎に内容や記載要領、回付ルートも記載したフォーマットを定型化し、業務手続きとして規定することにより、誰もがある程度の報連相品質を保てるようにできます。

 ある程度報連相が浸透しても、やはり難しいのが自身の家庭状況が関わる報連相と、他人の間違いを指摘する報連相でしょうか。突然の休みや離職の際は「私用で。。。」などの理由で、なかなか実情を語ってはくれません。また、他人を非難することになるような報連相は逆恨みを恐れてなかなかできないようです。公私の隔てない報連相を実現するには、まだまだ時間がかかりそうです。

2021年1月25日月曜日

マナーを高めてルールを減らす

 立ち上げられて間もない会社がまず苦労するのが社内でのルールの徹底ではないでしょうか。バイクは道路を逆走する、レストランではゴミを床に捨てるなど日系企業ではあるまじきルール違反が言わば社会の常識ともなっているベトナムでは、ルールを徹底することも一筋縄では行きません。

□ 上に政策あれば、下に対策あり」
 「上に政策あれば、下に対策あり」は中国で言われる事柄ですが、こうした考え方はベトナムでも当てはまるように思われます。交通事故を少なくするためのヘルメット規制も、ドライバー達は自分達の自由を束縛するものとして、品質基準を満たさない安価なヘルメットをかぶって違反を回避します。
 支配層がころころと変わってきた歴史を経て、一族が社会の基盤となっているベトナムでは、政府の政策は天から降ってくる押し付けごとと受け取られてしまうのでしょう。会社のルールについてもまたしかりです。

□ ルールの目的を解説し、共有する
 社内ルールの展開をベトナム人担当者が行うケースが多いですが、ともすればルールの説明にとどまり、なぜそのルールが必要なのか、目的が説明されていないケースが散見されます。もとより、一般的なベトナムでの統制管理の仕方は、「ルールを発布して、守れなければ罰則を厳しくする。ルールを守るか否かは各個人の責任。」というものです。
 まずはルールが各人を縛り付ける「会社のためのもの」ではなく、従業員が安全・快適に職場で協働するための「従業員のためのもの」であることを前提に、各ルールの目的を解説してあげる必要があります。「食後に楊枝を床に捨てない」など、なぜこうしたルールが従業員のために必要なのか、説明できないベトナム人担当者もいます。

□ ベトナムの現状にそぐわないルールの設定は避ける
 日本での常識から、ままベトナムの実態にそぐわないルールが設定されているケースも見受けられます。
 通勤時の靴の着用など、バイク通勤での安全を鑑みたルールであることは理解できるのですが、ベトナムの高温多湿な気候や突然のスコールなどを考えると、現実的には従業員に苦痛を強いるルールとなってしまうこともあります。現実との折り合いを考えてルールを設定・工夫をする必要があります。

□ マナーを高めてルールを減らす
 ルール違反が常習化する人を排除する目的では、イエローカードの発行など違反の実績を記録しておくことは必須ですが、ルール設定の目的は違反者を罰することではなく、皆がルールを守れるようにすることであることを忘れてはいけません。
 ルール違反者へ対処するとともに、好マナーの事例を表彰するなど、思いやりや気づきを高める施策を手がけたいものです。
 また、ルールは会社が決めるもので、従えなければ従業員は退社すべきものとも受け取られがちです。しかしながら、個々の違反事例を分析すれば、ルールの改変により、従いやすいルールにすることは可能なものです。
 組合や安全・倫理委員会などを通じて、守りにくいルールの改善提案を促すのは、従業員の自主性や改善力を養う上でも効果的と思います。

 弊社が請け負う社内講座では、受講者が自発的に遅刻への罰金を課すことがあります(講座後のパーティの原資となる)。こうして自発的に設定したルールは守られやすいですし、違反をしても後腐れがありません。従業員がより良い職場作りを目指して自主的にルールを決められるようになることが理想と思います。

2021年1月18日月曜日

新たにベトナムに赴任された皆さまへ

 今年も新しくベトナムに赴任される方が多い季節を迎えました。バイクの多さや路上の風呂椅子での食事風景、ベトナム人の人懐っこさなど他国から横滑りで赴任された日本人の方々にも始めは新鮮な驚きが続く日々と思います。しかしながら、筆者もそうでしたが徐々にベトナムでの生活・職場への理解が進むにつれてストレスが溜まり易いのが赴任1年目です。

□差でなく違い
 レストランではゴミを床に捨てる、バイクや車までもが道路を逆走する、手を洗った後に拭かないためトイレのドアノブがいつも濡れている、などなどベトナム生活を知るにつれベトナム・ベトナム人材の課題が目についてきます。そんな時、つい口に出てしまうのが「日本では。。。日本人は。。。」といった日本とベトナムとを比較してしまう言葉です。
 ベトナムでの在留邦人数も13,000人を超えましたが、人口9,000万人のベトナムではわずか7,000人に1人の日本人です。「これはおかしい」と叫んでみても日本の常識など通用しようもありませんし、「ここはベトナムだ」と言い返されるのが関の山です。
 もちろん日本企業では各社なりの常識にベトナム人であれ染まってもらう必要はありますが、まずはベトナムと日本では常識が異なることを「差」でなく「違い」として冷静に受け止めることが必要です。

□ベトナム人材とのお勧めの接し方
 日本人と似ていると喧伝されるベトナム人材ですが、知れば知るほど違いが見えてきます。赴任されて間もない皆様に、筆者なりのベトナム人材とのお勧めの接し方を紹介します。

1. まずは笑顔で
 外国人は笑顔で迎えるベトナム人材ですが、ベトナム人同士の人間関係はかなりぎすぎすしています。特にベトナム企業では同僚同士の水面下での足の引っ張り合いは日常茶飯事ですので、互いに安易に気を許すことはありませんし、腹を割って本音で語るということはありません。
 ベトナム人はベトナム人に対しては慎重に接しますが、逆に気を許しやすいのが外国人です。笑顔で接することで比較的容易にベトナム人材から信用を勝ち得、打ち明け話を聞き出すことができます。甘やかして付け上がるのを恐れて(実際、付け上がりますが)強面で接してしまいがちですが、信用を勝ち得るまでは笑顔を優先することをお勧めします。

2. 叱っても怒らない
 日本では怒るのも愛情表現の一つ、怒鳴られて成長するという考えもありますし、筆者もバカアホ呼ばわりされながら鍛えられたと自負しています。しかしながらベトナムでは少し様子が違うようです。
 ベトナムでは感情を露わにするのは大人として恥ずかしいこと、理性を失い敵意をむき出しにしていると受け止められるようです。感情的に怒ると、自己防衛本能の強いベトナム人
材の中には押し黙るか逆切れする人も多くいます。あくまで淡々と間違いを指摘し、冷静に指導・叱るのがベトナム流です。ベトナム企業では部下が失敗しても怒ることはありませんし、叱ることすらないことも多いです。

3. 信用しても信頼しない
 言葉が通じないベトナムでは、それぞれベトナム人従業員の個性や特性が十分に理解できるまでは、言葉の通じる日本人好みの気の利いたベトナム人材に肩入れしてしまいがちです。ともすれば気持ちが入りすぎてしまい、この子は付いて来てくれるに違いないと思い込んでしまうこともあります。
 しかしながら、こうした相思相愛との思い込みは片思いに終わることも多いので注意が必要です。ベトナム人材にとっては「会社」の優先順位は家族や自身・友人に劣ります。口では「頑張ってxxさんの後を継ぎます」と言っても、家族から頼まれたり、自身のキャリアにつながる機会があれば簡単に心が揺らぎます。
 優秀で信用できる成果を出すベトナム人材も多いですが、決して過信しないことが大切です。2の矢・3の矢を用意しておく心積もりが必要です。

□ベトナムは人間修養の場
 ベトナムでは日本では目にしないようなことが次々起こります。信頼した部下に裏切られ、心が折れるようなこともあります。筆者は「ベトナムは人間修養の場と考えてください」と日本人の方にはお願いしています。3年も経てば大抵の問題には驚かなくなります。物事に動じない達観した心を持てるよう、日々精進ください。

2021年1月11日月曜日

若手日本人管理者の育成に向けて

 拠点の現地化を日々の業務を通じて進めることが期待される若手日本人管理者ですが、日本での管理経験の少なさや、日本に製造現場がないための経験不足などから、ベトナムにて管理者としての役割を担うことに苦戦しているという話をよく耳にします。

□成長の機会を活かしましょう
 「日本では稟議だ根回しだと、一つの施策の承認を得るのに数ヶ月を要するが、ここでは自分の判断で即座に行動に移せる」と、生き生きとされている経営者の方をまま見かけます。思いの強い経営者の方には、現法のトップとなることは自身の手腕を活かす格好の機会となっているのでしょう。
 本社が若手の日本人材に拠点の管理者として赴任を命ずるのも、施策の展開のみならず海外拠点での成長への期待があってのことと思います。
 言葉も通じないベトナム人部下を率い、文化も異なるベトナムで管理者として判断・行動することは、日本とは異なる難しさにぶつかる面もあります。しかしながら、まずは日本ではなかなか得られないチャンスをましてや海外で得ることができたと考え、成長の機会を活かして臆せず果敢にチャレンジしてもらいたいと思います。
 筆者も、経営者という立場をベトナムにて初めて体験し、苦しみながらも日々楽しんでいます。

□管理の第1歩は目的・目標の設定から
 管理は「目的・目標の実現・達成に向けて、経営資源を集め・配置し・活用し・評価する活動」といったように定義されています。ここに見られるように、管理の第1歩は目的・目標の設定から始まります。まま、初めての管理者としての役割にとまどい、管理者として「何をすべきか」に悩んでいる管理者の方を見かけます。まずは「何をすべきか」ではなく「何を成すべきか」を問うべきでしょう。
 目的や目標のない管理者の取る行動は管理ではなく、監視となってしまいます。担当部署の目標達成や赴任ミッションである施策の展開、ベトナム人担当者へのノウハウの移転など、管理の目的・目標を見定め、上司の方と握っていただきたくことが管理の出発点と思います。

□管理者なき管理が良い管理
 管理行動というと、頻繁に現場を巡回し、こまめに部下に指導することを真っ先にイメージされるように思います。確かに現場の状況をつぶさに把握しておくことや部下とのコミュニケーションを円滑にすることは大切ですが、忘れてはならないのが管理のための風土や仕組み作りです。
 「管理者なき管理が良い管理」という言葉があります。管理は複数の人が働く場では必ず必要となりますが、「管理者」は必ずしも必要でありません。管理者がいるとういことは、そこに削減すべき間接コストがあるとういことです。目指すべき管理は管理者がいなくとも現場がスムーズに動き、問題にすばやく対応できるようになっていることです。そのためには、体制を整え・役割を明確にし、手順や標準を構築し、目的や心構えを共有する仕組み作りと風土作りが必要となります。
 管理者が不要となるように現場を育てることによって、管理者は本来業務である方針の立案や組織の開発に注力することができるようになります。

2021年1月4日月曜日

活気のあるベトナムは就活の天地?

本年で筆者の在越年数も15年目を迎えました。自身が年を増したせいでもありましょうが、最近では20代の若手の日本人がベトナムで活躍する姿も目に付くようになりました。本稿の読者のほとんどは会社勤めの方々と存じますが、日本を離れてベトナムで職を探そうという方々に向けてエールを送りたいと思います。

□活気のあるベトナムで働きたい
 現地採用を目指してベトナムで仕事探しをする日本人の方へ「なぜベトナムで働きたいのですか?」と問うと、よくいただくのが「ベトナムは活気があり、成長も期待される」という回答です。
 確かに、失われた20年が30年に延長しそうな日本に比べれば、バイクが縦横無尽に走り回り、道端の路上店が賑わい、次々に新しいビルが誕生するベトナムは活気に溢れているように見えるのでしょう。
 2019年のGDP成長率は約7%とも報じられ、1%前後の成長で嬉々とする日本と比べても、ベトナムは目覚ましい発展を遂げています。
 しかしながら、ベトナムの活況も先進国である日本から来る異邦人は冷静に状況を見つめる必要があります。
 一人当たりGDPが2,700ドル程度のベトナムにて、7%のGDP成長率は一人当たりでみれば、180ドル/人/年のGDP増となります。一方で円安のもと一人当たりGDPが40,000ドル程度となっている日本は1%の成長で、400ドル/人/年のGDP増です。すなわち絶対額でみれば一人当たりのGDP増は日本の方が200ドル以上高くなります。つまり、ベトナムの活況の恩恵はベトナム人に取っては著しい成果となりますが、在越の日本人にとっては活況のわりに恩恵が少ないと感じてしまうということです。

□ベトナム人が競争相手
 昨今は、ハノイ市やホーチミン市で講演する機会も増え、特にベトナム人材の特質についてよく話をさせていただいております。講演の中で最近よくご意見をいただくのは、「ベトナム人材にも課題はあるが、日本人も似たりよったりだよ」という声で、筆者も大いに賛同するところです。
 ただでさえ海外志向が薄れている日本で、若手日本人材がやる気と期待を糧に飛び込んでくるのは素晴らしいことですが、ベトナムでは同世代のベトナム人材が競争相手として待っているということを念頭に置く必要があります。
 途上国にありがちな大卒者の人余り状況にあるベトナムでは新卒者はまだ250ドル程度で雇用できます。一方で若手とはいえ日本人材を採用するとなると、20代前半でも1500ドル程度の給与は支給しないとベトナム人化していない外国人が生活できる水準が満たせません。つまり、経営者の視点からは日本人材には必然的に5倍以上の生産性もしくは能力が求を求めてしまうということです。国が発展途上なら人材も発展途上のベトナムでは、日本語以外でも日本人材が優位に立てる場面は豊富にあり、若手であれ日本人材にはベトナム人材への手本となることが期待されます。
 ところが、日本的な仕事の仕方が確立していないうちにベトナムに飛び出してしまった日本人材はベトナム人材と同じようにホウレンソウや仕事の段取り組みなどの課題を抱えています。ともすれば、日本企業で経験を積んだベトナム人材からは「あの日本人は仕事ができない」と指摘を受けてしまうことさえあります。
 ベトナムでは日本語人材も増え、単に日本語を強みにするだけでは、ハングリー精神に富み・日本的サービスを心得たベトナム日本語人材には歯が立たなくなってきています。

□手に職をつけて途上国人材との競争に臨みましょう
 語学や経理、機械工学など、ベトナム人材は大学での専攻との関連で職業を選ぶことが多いです。血縁や地縁に頼らずに出世を試みる人たちは専門性を頼りにするということでしょうか。自らの専門性が磨ける職場を選び、貪欲に吸収していくベトナム人材は未成熟な部分はあるものの成長スピードは速いです。
 日本を飛び出す若手日本人材の競争相手はこうしたベトナム人たちです。やる気や人柄だけでは、実利的・現実的なベトナム人材には太刀打ちできません。
 ベトナムではマイノリティの日本人ですから、ことさら自身が日本人であることを自覚させられ、またベトナム人は筆者を日本人として期待します。外国人には優しいベトナム人材に甘えず、日本人としての強み、自身の得意技に磨きをかけ、ベトナム人材との競争に臨んでほしいとエールを送ります。

2020年12月28日月曜日

賄賂は社会の潤滑油?


 この稿が出稿されるのは12月で、まだベトナムの旧正月までは2ヶ月ほどありますが、本稿が皆さんの目に触れる頃には、例年であれば街角に交通警察が目に付く季節になっているのではと思います。
 年末の交通安全運動かと思いきや、当地にお住まいの方はご承知のとおり、正月前の小遣い稼ぎの取締りです。

□賄賂習慣はあります
 ベトナムに新たに進出をされる会社の方々の一つの心配事項は「賄賂習慣」ではないかと思います。確かに、賄賂は一般的な慣習として、人と人とのやりとりの至る所に存在します。

- お礼としての賄賂
 少し前の日本でもお中元やお歳暮など、時候の挨拶代わりやお礼に物を贈る習慣はありました。ベトナムでも、おすそ分けやお礼を贈る習慣はあり、筆者も近所の方から果物のおすそ分けをもらったり、訪問先のベトナム企業から接待を受けるということは良くあります。今でこそ日本では疎まれますが、会社に採用してくれた際や取引をしてくれたお礼などで現金が流通することは、当たり前にあります。

- 煩わしい手続きを回避するための賄賂
 杓子定規なベトナムでは特に役所の手続きなどに際しては、担当者の独自の解釈で書類などの妥当性が判断され、わずかな不備や不整合を見逃してくれないことが良くあります。取り寄せた公式書類の不備などを指摘された日にはにっちもさっちもいかないため、賄賂等の手段に寄らざるを得ない場面もあります。
 また、交通警察に捕まった際の賄賂金額などは違反金額よりも安く設定されており、わざわざ面倒な手続きを経るより賄賂で済ませたほうが警察官・違反者ともに都合が良かったりもします。

- 生活補助としての賄賂
 ベトナムでは公務員と民間企業の最低賃金は別に設定されており、2019年時点でわずか149万ドンと民間企業の約1/3です。また、政府の財政難からしばしば最低賃金の見直しも後倒しとなり、2020年の最低賃金の見直しは先送りとなりそうです。
 幾ら雇用の保証があるからといって、公務員が薄給に甘んじるわけもなく、当然のことながら副収入を求めることになります。先の手続き回避のための賄賂も収入源ですが、教師が時間外に有料で補習を行ったり、病院の診察順を早めるために看護婦が手数料を受け取ったりと、生活費稼ぎのための賄賂も存在します。
(先生の日に花をもらった先生が生徒に、「花ではなく現金を持って来い」と言ったとかで、社会問題になったこともありますが)

- 私腹を肥やすための賄賂
 日本のODA関連でも取りざたされたタイプの賄賂ですが、筆者もベトナム政府がらみの案件で監督庁に電話で問い合わせた際に、「xx万ドルを出せば案件を御社が受託できるようにする」と電話口で言われたことがあります。
 公務員の賃金が低い一方で、役所などを訪ねると年齢の割りに身なりが整い高級な腕時計や高級車を乗り回している役人に出会うこともままあります。

□賄賂との決別宣言と周知徹底
 採用の際に応募者からお金をもらうのはいかがなものと思いますが、旧正月時に取引先から送られてくるお歳暮など、一般的な贈り物についてはそこまで目くじらを立てる必要はないのかも知れません。
 しかしながら、公務員ばりに収入補助のため、または私腹を肥やすための賄賂を社内に持ち込まれると、社内に賄賂を中心とした別の組織が立ち上がることになります。
 日系企業でも、日本人から最も信頼を得ていた女性幹部が実は親玉で、掃除のおばちゃんに至るまでの社内賄賂ネットワークを築いていた、といったケースもあります。
 一般には賄賂を要求するような行為はベトナム人も好むところではありませんので、「賄賂は求めない、受け取らない」といった宣言と姿勢を明確にすれば、大半の人は賄賂に手を出すようなことはありません。
 加えて、採用などの場面では2重に審査をかけるとか、購買の担当者は定期的に交代するといった予防措置は賄賂決別の姿勢を見せる手段としては有効です。
 しかしながら、経理が支払いを遅らせる/ 組合の委員長が食堂の業者選定を行う/ 親類のサプライヤに発注する/ 決まったタクシードライバーを呼ぶなど、賄賂の誘惑に駆られる場面は日常業務の至るところにあり、全てに目を光らせることは現実的には困難です。
 平均的なベトナム人材は賄賂が一般化することで社内が荒れることを嫌います。こうした人たちが日本人管理者に耳打ちする機会を塞がないよう、賄賂からの決別宣言を行うとともに、幹部任せにせず、現場とのコミュニケーションを図ることが重要と思います。

2020年12月21日月曜日

拠点経営が見える化されていますか?

 長くお付き合いさせていただいた現法の社長が帰任されました。帰任の際に「ここ(ベトナム)では自分が決めればすぐに物事が進むのに、日本に帰れば簡単なことでも稟議だ役員会だと2、3ヶ月かかることを思うと気が重いよ」とおっしゃっていたのが、記憶に残ります。生き生きと現法経営に手腕を振るう経営者がここにもいたと、うれしく感じるとともに、社長が経営を一手に握る現法経営のあり方に一抹の不安も覚えます。

□社長まかせの現法経営リスク
 各社の人材育成のご相談に乗らせていただくにあたり、経営者の方の熱い思いにふれる機会もよくあります。
 「中国ではなしえなかった理想の工場をベトナムでは実現したい」
 「3、4年後には自分も交代になる。次社長が来ても経営の根幹が揺るがないように社長と対等に議論できる管理者を育てたい」。
 心に刻まれるような思いのある経営者の下での人材育成は必ずや成功します。
 一方で半ば従業員にのっとられてしまったかのような会社からのご相談もままいただきます。
 「前社長が従業員に自由にさせていたところ、業務の全てを従業員が握ってしまい、方向転換をしようにも言うことを聞いてくれなくなってしまった」
 「キーパーソンの従業員からの紹介を皮切りに近親者採用を認めたところ、社内の近親者同士が結託するようになった」
 「『何かするなら、まず私に相談してください。そうしないと何が起きても知りませんよ。』と幹部従業員に諭された」
 現法経営が社長の手腕にかかっていることは当然のことです。また、海外現法で手腕を活かすことは、日本人管理者の経営力を伸ばす格好の機会でもあります。しかしながら、現法経営の成否が社長個人に委ねられている場合には、同時に大きなリスクを抱えることにもなります。外見では本社の期待に応える業績を達成していても、実は社内に賄賂が横行し、親分株の従業員が会社を牛耳り、赴任された日本人を手のひらの上で転がしているような状況も生じえます。

□「職業は買う」がベトナム流
 2012年頃には、「公務員の採用に賄賂が横行しており、1件あたり少なくとも1億ドンが謝礼として支払われている」という告発も報道されました。外資系企業に勤める従業員の間では少しずつ薄れつつある考え方ではありますが、伝統的な考え方の人たち、また国営企業を目指す人たちにとっては、人脈がなければ「職業は買う」というのが常識として残っています。そして、職に就いても特に公務員は薄給が当たり前ですので、必然的に立場を利用した副業をすることとなります。労働法でも本業に支障をきたさない限りは副業を認めることが明文化されています。
 就労人口の6割超を自営セクターが占めるベトナムでは、まだまだ組織への帰属意識は高くはありません。家族を十分に養える規模の自営業を持たない個人が会社という組織に参加し、自身の商売を会社内に展開し家族に貢献するといったような就労イメージでしょうか。自身の商売にも会社業績にも悪影響を与えるような不正はしませんし、自身の商売の発展につながる会社業績への貢献は進んでします。一方で、自身の商売に不利になる組織変更や方針転換には反対しますし、会社が窮した場合には、沈みかけた船からは一目散に退散します。
 日本人としては会社への愛着心や忠誠心を従業員に期待してしまいがちですが、そうしたベトナム人材にめぐり合える確率は日本よりは少ないと想定されたほうが良いかと思います。

□現法経営の見える化は進んでいますか?
 拠点横断での情報交換会、本部主導での拠点横断の品質管理体制、全拠点でのジョブグレードの標準化など、現法経営に横串を指す活動が活発になってきています。ブラックボックスとなりがちな現法経営ですが、こうした活動は現法の業績指標管理のみならず、現法の風土や体質、コア人材の考え方など、広く現法経営の見える化、風通しの良さにつながるのではと考えます。
 筆者が直接かかわる領域は人事関連となりますが、各拠点の人材の育ち具合、離職事由、士気の状況など、現法代表の手を煩わせることなく本社・他拠点が把握できる活動の推進が期待されます。

果たして経営の現地化は進むか

 90年代後半、世界経済の3つのシナリオというのを目にしました。世界経済は大国のもと一様化するという第一のシナリオ、少数の強国に収れんされるという第二のシナリオ、そして複数の国により混沌化するといったものです。ソ連崩壊後の安定した経済化の当時は、当然のごとく第一シナリオが有力に感...