2020年12月28日月曜日

賄賂は社会の潤滑油?


 この稿が出稿されるのは12月で、まだベトナムの旧正月までは2ヶ月ほどありますが、本稿が皆さんの目に触れる頃には、例年であれば街角に交通警察が目に付く季節になっているのではと思います。
 年末の交通安全運動かと思いきや、当地にお住まいの方はご承知のとおり、正月前の小遣い稼ぎの取締りです。

□賄賂習慣はあります
 ベトナムに新たに進出をされる会社の方々の一つの心配事項は「賄賂習慣」ではないかと思います。確かに、賄賂は一般的な慣習として、人と人とのやりとりの至る所に存在します。

- お礼としての賄賂
 少し前の日本でもお中元やお歳暮など、時候の挨拶代わりやお礼に物を贈る習慣はありました。ベトナムでも、おすそ分けやお礼を贈る習慣はあり、筆者も近所の方から果物のおすそ分けをもらったり、訪問先のベトナム企業から接待を受けるということは良くあります。今でこそ日本では疎まれますが、会社に採用してくれた際や取引をしてくれたお礼などで現金が流通することは、当たり前にあります。

- 煩わしい手続きを回避するための賄賂
 杓子定規なベトナムでは特に役所の手続きなどに際しては、担当者の独自の解釈で書類などの妥当性が判断され、わずかな不備や不整合を見逃してくれないことが良くあります。取り寄せた公式書類の不備などを指摘された日にはにっちもさっちもいかないため、賄賂等の手段に寄らざるを得ない場面もあります。
 また、交通警察に捕まった際の賄賂金額などは違反金額よりも安く設定されており、わざわざ面倒な手続きを経るより賄賂で済ませたほうが警察官・違反者ともに都合が良かったりもします。

- 生活補助としての賄賂
 ベトナムでは公務員と民間企業の最低賃金は別に設定されており、2019年時点でわずか149万ドンと民間企業の約1/3です。また、政府の財政難からしばしば最低賃金の見直しも後倒しとなり、2020年の最低賃金の見直しは先送りとなりそうです。
 幾ら雇用の保証があるからといって、公務員が薄給に甘んじるわけもなく、当然のことながら副収入を求めることになります。先の手続き回避のための賄賂も収入源ですが、教師が時間外に有料で補習を行ったり、病院の診察順を早めるために看護婦が手数料を受け取ったりと、生活費稼ぎのための賄賂も存在します。
(先生の日に花をもらった先生が生徒に、「花ではなく現金を持って来い」と言ったとかで、社会問題になったこともありますが)

- 私腹を肥やすための賄賂
 日本のODA関連でも取りざたされたタイプの賄賂ですが、筆者もベトナム政府がらみの案件で監督庁に電話で問い合わせた際に、「xx万ドルを出せば案件を御社が受託できるようにする」と電話口で言われたことがあります。
 公務員の賃金が低い一方で、役所などを訪ねると年齢の割りに身なりが整い高級な腕時計や高級車を乗り回している役人に出会うこともままあります。

□賄賂との決別宣言と周知徹底
 採用の際に応募者からお金をもらうのはいかがなものと思いますが、旧正月時に取引先から送られてくるお歳暮など、一般的な贈り物についてはそこまで目くじらを立てる必要はないのかも知れません。
 しかしながら、公務員ばりに収入補助のため、または私腹を肥やすための賄賂を社内に持ち込まれると、社内に賄賂を中心とした別の組織が立ち上がることになります。
 日系企業でも、日本人から最も信頼を得ていた女性幹部が実は親玉で、掃除のおばちゃんに至るまでの社内賄賂ネットワークを築いていた、といったケースもあります。
 一般には賄賂を要求するような行為はベトナム人も好むところではありませんので、「賄賂は求めない、受け取らない」といった宣言と姿勢を明確にすれば、大半の人は賄賂に手を出すようなことはありません。
 加えて、採用などの場面では2重に審査をかけるとか、購買の担当者は定期的に交代するといった予防措置は賄賂決別の姿勢を見せる手段としては有効です。
 しかしながら、経理が支払いを遅らせる/ 組合の委員長が食堂の業者選定を行う/ 親類のサプライヤに発注する/ 決まったタクシードライバーを呼ぶなど、賄賂の誘惑に駆られる場面は日常業務の至るところにあり、全てに目を光らせることは現実的には困難です。
 平均的なベトナム人材は賄賂が一般化することで社内が荒れることを嫌います。こうした人たちが日本人管理者に耳打ちする機会を塞がないよう、賄賂からの決別宣言を行うとともに、幹部任せにせず、現場とのコミュニケーションを図ることが重要と思います。

2020年12月21日月曜日

拠点経営が見える化されていますか?

 長くお付き合いさせていただいた現法の社長が帰任されました。帰任の際に「ここ(ベトナム)では自分が決めればすぐに物事が進むのに、日本に帰れば簡単なことでも稟議だ役員会だと2、3ヶ月かかることを思うと気が重いよ」とおっしゃっていたのが、記憶に残ります。生き生きと現法経営に手腕を振るう経営者がここにもいたと、うれしく感じるとともに、社長が経営を一手に握る現法経営のあり方に一抹の不安も覚えます。

□社長まかせの現法経営リスク
 各社の人材育成のご相談に乗らせていただくにあたり、経営者の方の熱い思いにふれる機会もよくあります。
 「中国ではなしえなかった理想の工場をベトナムでは実現したい」
 「3、4年後には自分も交代になる。次社長が来ても経営の根幹が揺るがないように社長と対等に議論できる管理者を育てたい」。
 心に刻まれるような思いのある経営者の下での人材育成は必ずや成功します。
 一方で半ば従業員にのっとられてしまったかのような会社からのご相談もままいただきます。
 「前社長が従業員に自由にさせていたところ、業務の全てを従業員が握ってしまい、方向転換をしようにも言うことを聞いてくれなくなってしまった」
 「キーパーソンの従業員からの紹介を皮切りに近親者採用を認めたところ、社内の近親者同士が結託するようになった」
 「『何かするなら、まず私に相談してください。そうしないと何が起きても知りませんよ。』と幹部従業員に諭された」
 現法経営が社長の手腕にかかっていることは当然のことです。また、海外現法で手腕を活かすことは、日本人管理者の経営力を伸ばす格好の機会でもあります。しかしながら、現法経営の成否が社長個人に委ねられている場合には、同時に大きなリスクを抱えることにもなります。外見では本社の期待に応える業績を達成していても、実は社内に賄賂が横行し、親分株の従業員が会社を牛耳り、赴任された日本人を手のひらの上で転がしているような状況も生じえます。

□「職業は買う」がベトナム流
 2012年頃には、「公務員の採用に賄賂が横行しており、1件あたり少なくとも1億ドンが謝礼として支払われている」という告発も報道されました。外資系企業に勤める従業員の間では少しずつ薄れつつある考え方ではありますが、伝統的な考え方の人たち、また国営企業を目指す人たちにとっては、人脈がなければ「職業は買う」というのが常識として残っています。そして、職に就いても特に公務員は薄給が当たり前ですので、必然的に立場を利用した副業をすることとなります。労働法でも本業に支障をきたさない限りは副業を認めることが明文化されています。
 就労人口の6割超を自営セクターが占めるベトナムでは、まだまだ組織への帰属意識は高くはありません。家族を十分に養える規模の自営業を持たない個人が会社という組織に参加し、自身の商売を会社内に展開し家族に貢献するといったような就労イメージでしょうか。自身の商売にも会社業績にも悪影響を与えるような不正はしませんし、自身の商売の発展につながる会社業績への貢献は進んでします。一方で、自身の商売に不利になる組織変更や方針転換には反対しますし、会社が窮した場合には、沈みかけた船からは一目散に退散します。
 日本人としては会社への愛着心や忠誠心を従業員に期待してしまいがちですが、そうしたベトナム人材にめぐり合える確率は日本よりは少ないと想定されたほうが良いかと思います。

□現法経営の見える化は進んでいますか?
 拠点横断での情報交換会、本部主導での拠点横断の品質管理体制、全拠点でのジョブグレードの標準化など、現法経営に横串を指す活動が活発になってきています。ブラックボックスとなりがちな現法経営ですが、こうした活動は現法の業績指標管理のみならず、現法の風土や体質、コア人材の考え方など、広く現法経営の見える化、風通しの良さにつながるのではと考えます。
 筆者が直接かかわる領域は人事関連となりますが、各拠点の人材の育ち具合、離職事由、士気の状況など、現法代表の手を煩わせることなく本社・他拠点が把握できる活動の推進が期待されます。

2020年12月14日月曜日

ベトナム人材採用はデータで勝負

 昨今の採用では、日本人応募者を目利きすることにも自信を失いつつありますが、もとより言葉や文化の異なるベトナム人材の採用では、筆者は数限りなく失敗を繰り返しています。
 採用面接は互いを見極める「お見合い」の場などと言われますが、採用されてから就職するかを考えるベトナム人材はなかなか本性を現しません。

□良い人を探す前に、問題児を採用しない

 弊社への研修のご相談時にもよく耳にする課題指摘ですが、採用後に仕事にも慣れてきたベトナム人材の問題行動には以下のようなものがあげられます。
- 自分のミスを認められない。ミスを指摘すると言い訳が続き、ついには逆切れする。
- 問題が生じると他部署や他人のせいにする。自身では動かず、「xxさんに依頼して下さい」と仕事を振り返す。
- 他部署や他人の仕事に関心を示さず、自分の仕事が終わるとさっさと帰る。部下に仕事を依頼して自分は早々に帰宅する。
- 会議など、自身の主張を繰り返すだけで、他参加者の意見に耳を貸さない。決まったことでも自分の意見と異なると従わない。
- 「私用で休みます」と、理由を明かさない。プライベートへの質問に極端な抵抗を示す。
 こうした方が職場にいると、雰囲気が殺伐とし、個人主義・事なかれ主義がはびこってしまいます。
 また、もとよりベトナムではこうした性格の人は珍しくもないため、他のベトナム人従業員は不満ももらしませんが、関わりあわないようにと互いに疎遠になっていきます。
 問題児のベトナム人材も教育を通じて少しずつ変わっていくケースも見られます。しかしながら、手間も時間も取られますので、採用しないことが第一です。即戦力を探すことは相当に難しいベトナムですが、普通の人であれば育てれば育ちます。まずは、採用段階で採用すべきでない人は採用しないことが大切と思います。

□ベトナム人材の採用はデータで勝負
 人材紹介者が先記のような問題児を紹介前に選別してくれることを期待しますが、実態は猫をかぶった求職者と簡単な面接を行うだけのようですので、自衛手段を考えざるを得ません。
 現場作業者の採用では、「名前を書く欄を指示したにも関わらず、名前を違う場所に書く」など、人の指示を聞けない候補者がいるのも事実です。また、大卒者の面接でも「自分の性格を説明してください」という問いに十分に応えられる人はほとんどおらず、本人自身が自分を理解していない状況が伺えます。直近行った面接では、候補者が映画好きだというので、「自分の好きな作品を上げて、その作品から何を感じたかを説明してください」と問うたところ、「最後に主人公の女性が幸せになれて良かった」というので、「何を感じたのか、聞いているのです」と問いただしたところ、「もう私の意見は言いました!」と切れてしまいました。
 この面接では候補者が切れた段階で、概ね性格が知れたのでよかったのですが、自分の性格を説明できないことが一般的なベトナムで、面接で候補者の人となりを理解することは相当に困難です。
 そこで弊社では、面接時の印象などは補足情報にとどめ、むしろテストなどを通じたデータを主体に候補者を選抜しています。
 最近では日本で実施しているような採用テストがベトナム語で実施できるようになってきています。費用が気になる方はインターネットでも簡易的なテストは入手可能ですので、最低以下の視点からのデータを入手し、採用判断に活用されてはと思います。

- 知能テスト
 いわゆるIQテストですが、概ね頭の回転の良さが図れます。弊社では日本人の候補者の方にも同じテストを受けていただいていますが、ベトナム人の方が平均して得点は高く、やはり頭が良いんだなあと関心してしまいます。日越人を問わず、極端に点の低い方は避けるべきでしょう。
 現場作業者向けには、算数や国語などのテストを実施している会社は多くあります。

- 心理テスト
 多種のテストがありますので、どういったテストを実施するか悩まれることと思います。
 弊社では試験的にパーソナリティ障害の簡易診断を実施しています。傾向が見られるだけで合否はありませんが、他者への懐疑心や自己愛の程度、依存性の強さなどの傾向が測れます。平均と比較して極端な数値が出る際には注意が必要です。
 現場作業者向けには、面接や試験を待つ間の姿勢・態度などを観察して選抜されている会社もあります。

2020年12月7日月曜日

管理姿勢サーベイ10選

 弊社が社内研修を始めて実施させていただく会社には「管理姿勢サーベイ」を実施し、研修後の指導に役立てる参考情報として提供しています。「管理姿勢サーベイ」は各社のベトナム人従業員の考え方がどの程度日本的な価値観に染まっているかを図る目的で設計したものです。今回は、様々な会社様に「管理姿勢サーベイ」を実施してきた経験から、特にベトナム的な特徴が現れやすいサーベイ項目を紹介したいと思います。

□管理姿勢サーベイ10選
1. 問い :「高い地位や特別な技術を持った従業員は給与以外にも高い待遇を受けるべきだ」
 期待する回答 :NO、「役職は役割の違いに過ぎず、給与以外は皆平等」
 この設問は”YES”と回答する方が比較的多く、「上司が良い待遇を受けることで、部下の動機付けにつながる」といったコメントが寄せられます。特にベトナム企業では管理職には個室が与えられたり、昼食のメニューが異なっていたり、通勤用車が手配されたりと厚遇を受けることが多いためと思われます。

2. 問い :「部下を褒めたり叱ったりする場合は、皆の前でするべきか」
 期待する回答 :NO、「個人別に話をすべき」
 この設問は意外に、”NO”と回答する方が多いです。日本人が外国人をしかる場合の注意事項として良く知られている内容ですが、やはりベトナム人も部下のプライドに気を配っている様子が窺えます。ただし、まま「間違いを知らしめるために、皆の前で叱るべき」というコメントがあります。

3. 問い :「会議では自分の考え方を押し通すのが良い」
 期待する回答 :NO、「参加者の意見に耳を傾け、合意案へまとめあげる」
 この設問は”YES”と”NO”の回答が半々くらいになりましょうか。”YES”と回答する方は、「参加者の意見に耳を傾けると会議が混乱する」というコメントが典型的です。会議は決定を伝える場であり、議論の場ではない。意見を求められると他の参加者の意見に耳も傾けず自身の利害だけを考えて発言する、傾向の表れでしょうか。

4. 問い :「ルールの遵守のためには、より詳細で厳しいルールを設定すべきか」
 期待する回答 :NO、「ルールが不要になるよう、皆のマナーを高める」
 この設問は顕著に”YES”の回答がでやすいです。まだルールそのものが未整備・不整合を起こしているベトナムですが、一般に「管理」とはルールを決めて発行/取り締まることであり、ルールが遵守されない場合には更に厳しい罰則を科す、と考える傾向が伺えます。

5. 問い :「会社のために頑張れと部下を鼓舞すべきか」
 期待する回答 :NO、「自分のために頑張れと鼓舞すべき」
 やや意図が理解しにくい設問ですが、顕著に”YES”の回答がでやすいです。「会社の目標達成に向けて従業員は努力する必要がある」などのコメントが得られます。まだ仕事が自身の成長や人生にどのように役立つのかと考えが至らない様子が窺えます。

6. 問い :「購入部品の品質担保は自分たちの責任か」
 期待する回答 :YES、「サプライヤを含めて品質確保・向上の努力を払う」
 こちらは顕著に”NO”の回答がでやすいです。仕入れ材料の品質問題などが生じても、「サプライヤに改善を依頼する」などの対応策を掲げるケースが多く、組織の壁を超えて問題解決を進めることにためらう様子が窺えます。

7. 問い :「生産活動の継続のため、在庫はできるだけ多く保持するべきか」
 期待する回答 :NO、「最適在庫を目指して、在庫を減らす」
 こちらも比較的“YES”の回答が出やすい設問です。「在庫不足で生産が良く止まる」などのコメントが聞かれますので、現実には在庫の確保に苦慮する様子も窺えますが、在庫が"悪”であるという考えが薄いとも思われます。

8. 問い :「管理の視点から、最も優先されるものは?(生産性、品質、安全、利益)」
 期待する回答 :「安全」
 こちらは意外にも4割程度の方が「安全」以外を回答します。安全第一は各社で叫ばれている標語ですが、各期の重点管理項目に左右され、「品質」や「利益」と回答する方が多くいます。「安全」を満たした上で「品質」や「生産性」を高めるという優先順位の理解が薄いようです。

9. 問い :「部下が作業手順に従えない場合は、従うよう強制するか、要員を交替させる」
 期待する回答 :NO、「作業手順に従えない理由を明らかにし、必要であれば手順を見直す」
 こちらは3割程度の方が”YES"と回答します。半数以上の方は部下を育てる必要性、部下に仕事をしやすい作業環境を与える必要性を理解していますが、一部の方には部下は仕事ができて当たり前、できなければ辞めるしかない、と考えるようです。

10. 問い :「他者が抱える仕事上の問題解決にも積極的に関わるべきだ」
 期待する回答 :YES、「他部門の問題にも自部門の視点から解決に参加すべき」
 こちらは会社により傾向が変わる設問です。概ね”YES"が多くなりますが、"NO”の回答が多くなる会社もあります。典型的なコメントは「自身の責任範囲以外の仕事には口を挟むべきではない」となり、人の芝生には足を踏み入れない考え方が窺えます。

2020年11月30日月曜日

人事評価制度を現地化しましょう

 人材育成とも大きく関連することから、会社様から人事制度についてのご相談も良くいただきます。様々な会社様からのお話や、弊社でベトナム人評価者向けの研修などを実施した経験から、特に人事評価については各社に共通した課題があることが見えてきました。今回は、そうした課題の解決に向けた人事評価制度の現地化について考えたいと思います。

□公正な評価が行われないのは、ベトナム人管理者だけの問題か
 人事評価者研修などの依頼をいただくきっかけとなるのは、まずはベトナム人評価者に関する問題です。
 よく耳にするは、「評価結果がインフレする」「評価を使って部下を手なずけようとする」「人によって評価のバラツキが大きい」などでしょうか。
 確かに師匠と弟子のような日本的な上下関係のないベトナムでは、管理者は評価に慣れておらず、評価の目的を給与査定のみと捉えて、ともすれば部下との軋轢を避けるために部下の満足のいく評価を与えがちです。しかしながら、こうした誤解は評価の意味や目的が、むしろ部下の成長に向けた改善点や成長への期待の把握にあることを説明すれば理解はできます。
 一方で、評価者研修などを通じて浮かび上がってくるのが、会社の制度上の問題です。
目標管理制度を導入しているものの、目標設定の方法・手法についてのガイドラインが不足しており、目標に「期日どおりに請求書を発行する」などの日常業務が記述されていたり、一方で「10部品の現地化を進める」といった会社施策的な目標が混在していたりします。また、日本の評価基準のコピーや、経験の少ないベトナム人担当者が作成したと思われる、「仕事の完遂に最善を尽くす」「問題を速やかに解決する」といった主観的にならざるを得ない項目が評価表に掲げられていたりもします。
 こうした、曖昧な重み付けや評価基準のもとですと、各ベトナム人評価者は各々の主観的なモノサシを持って部下を評価するようになってしまいます。

□人事評価のPDCAが回る仕組み作り
 人事評価は期末のみに行われるものではなく、期初の目標設定に始まる通年の活動です。従って、期を通じてPDCAを回せる仕組み作りと運用が必要になります。
 まず大前提となるのが「職務記述書」です。役割のみが羅列された職務記述書をまま見かけますが、職務の果たすべき責任、期待される役割、持つべき能力が、各職務の違いを意識して記載されている必要があります。
 そして、各職務の遂行能力が測れる「スキルマップ」が管理スキル、技術スキル、人間スキルの観点から客観的に評価できる基準で定義されていることが望まれます。また、目標設定は各職務の内容に応じて、日常業務目標・改善目標・会社方針に基づく戦略目標や個人目標に区分され、職務レベルごとの難易度のガイドラインに基づいて重み付けがされるのが好ましいです。
 こうした仕組みを前提として、期初の目標の握り(P)にはじまり、期中の推進状況へのフォロー(D)、期末の評価とフィードバック(C/A)といったサイクルを運営していきます。
 運営上大切なのは、各人が設定した目標を達成できるように上司は日常業務を通じて後押しをすること、評価という機会を活用して上司・部下が互いに期を振り返り、反省とともに来期の目標達成に向けた改善点を識別することです。

□人事評価制度の現地化を進めましょう。
 人事評価制度のもう一つの課題は各拠点の日本人体制です。ほとんどの会社は少数精鋭の日本人で運営されており、人事専任の日本人を置ける会社は少数です。またこうした体系的な制度構築の知識や経験のあるベトナム人人事担当者を探すことは非常に困難です。
 ともすれば体力勝負にもなってしまう人事評価制度構築は、海外に通じた本社担当者の支援が得られれば良いですが、そうでなければ、仮に設計図は描けても構築まで手が回らない状態に陥ってしまいがちです。
 残念ながら、この課題への解は筆者もまだ見つけられておりません。少なくとも筆者の会社が支援できるように力をつけるとともに、各社の人事担当者を育成しつつ制度構築を進める方法を模索したいと考えています。

2020年11月23日月曜日

言葉の意味を合わせましょう

 ベトナム人採用候補者の履歴書が自画自賛の言葉で飾られていることは皆さん良くご存知と思いますが、不思議に思い何度か尋ねたことがあります。

筆者:「ここにハードワークって書いてあるけど、どういう意味?」
候補者:「仕事に集中して取り組むことです!」
筆者:「。。。。(それって、普通に働くことじゃないかなあ)」
筆者」「では、ここにプロフェッショナルな環境で働きたいとあるけど、プロフェッショナルとはどういう意味?」
候補者:「時間通りに会社に来て、サボらずに働くことです!」
筆者:「。。。。(それって、当たり前のことじゃないかなあ)」

どうにも同じ言葉を使っても、ベトナム人と日本人では理解に違いがあるようです。

□社会が異なれば、言葉の意味も異なる
 先の「プロフェッショナルな職場」という言葉については、もう少し深く聞いてみたところ、どうも当人は一般的なベトナム企業、役所と比較して「プロフェッショナル」という言葉を選んだようでした。
 確かに役人が朝はカフェで友人と歓談し、昼ごろ現れたと思ったら上役人の接待で飲みにでかけ、酔っ払って帰ってきたと思ったら帰宅する。概ね想像がつきます。
 もちろん当人に悪気はないのですが、言葉の背景にある社会環境や成熟度の違いから、言葉の意味も異なることが多いことには注意が必要です。

□言葉の意味を合わせましょう
 弊社が研修講座を実施する際にも、一般に誤解を生じている、もしくは理解が不足している言葉には注意を払って意味を共有するように心がけています。異論のある方もいらっしゃるかと思いますが、勇気を持って幾つか例を挙げてみます。
・「整理」をするとは、「要らないものを捨てる」ということですが、「要るもの=まだ使えるもの」と理解している場合があるため、「要らないもの=3ヶ月間使わなかったもの」など定義を明確にする
・「小さい問題はほっておけばよい」と考えがちなため、「小さな問題の原因が大きな被害を起こすことがある」と、事象ではなく原因に着目するよう説明する
・「対策を打つ」とは、問題の火を消し止めることだけではなく、問題の再発を防止することである
・作業は作業結果を提出すれば終わりではなく、作業結果が承認を得て終わる
・部下の作業結果に責任を持つとは、時間外までかかっても部下の作業結果を確認することである
・過ちを犯すことが過ちではなく、過ちを改めないのが過ちである
・「計画を作る」とは、期日を決めることではなく、作業を決めることである
・「期日を守る」とは期日までになんとかするのではなく、期日より前に終えることである
・「報告をする」とは言うべきことを言うことではなく、聞きたいことに応えることである
・「連絡をする」とは、伝えたかどうかではなく伝わったかどうかで評価される
・「勉強する」とは知識を吸収することではなく、知識をもとに発想することである
・「能力が高い人」とは知識や経験が豊富な人ではなく、すばやく知識や経験を活かせる人のことを言う
・「要点を明確にする」とは、話の内容をまとめることではなく、相手に期待する行動や意思決定を具体的に示すことである
・「チームで働く」とは互いに助けあうことだけではなく、チーム構成員の能力の総和以上の成果を出すことである
・「指導する」とは教えることではなく、できるようにすることである
・「原因を究明する」とは犯人を捜すことではなく、問題を生じたメカニズムを明らかにすることである
・「議論する」とは、意見を言うことではなく、案を提言することである
・「片付ける」とは、見えないところに物を隠すことではなく、問題が見えるようにし、問題を解決することである
・「管理する」とは、監視をすることではなく、監視が不要な仕組みを構築し、運用することである

□ハンドブック作成の進め
 これまで訪問させていただいた会社様には、会社の経営理念や社内で共通して使われる用語・単語について意味や目的を説明するハンドブックを作られているところもあります。
 日本でも言葉の受け止め方の違いが混乱を生じることは多々ありますが、ましてや社会環境や成熟度が異なるベトナムにあっては、同じ言葉を使っても期待するとおりに理解されないことは当たり前にあります。 普段当たり前に使っている言葉も、今一度正しく理解されているかどうかを振り返り、言葉の意味を共有して、ハンドブックを充実させていくことをお勧めします。

2020年11月16日月曜日

仕組みで育てる

 特に会社に伺っての社内研修では、弊社に教育のご依頼いただくのは、従業員規模150名超の会社がほとんどです。筆者の知見からは、機械加工の会社でベトナム人従業員70~100名に1名の日本人、組み立て企業では200名から最大で1,000名に1人の割合で日本人が駐在されているようです。1人の日本人が直接指導できるベトナム人の数はせいぜい20名程度まででしょうから、手に余る体制となって、教育の依頼をいただくようです。

□「学ぶべき背中がない」「部下を育てない」
 「子は親の背中を見て育つ」とも言いますが、確かに日ごろ日本人と接する機会の多いベトナム人管理者は日本人の背中から学んでいる点も多いようです。しかしながら、課題となるのは中堅以下の従業員で、学ぶべき背中もなく、また上級管理者からの教育を期待するも、「ベトナム人管理者が部下を育てない」という声を良く耳にします。
 「ベトナム人がベトナム人を育てないのは、自身の立場を脅かす存在になるのを恐れるため」とも言われますが、筆者の観察からはむしろ、「受身教育の中で、人に教える機会が少なく、一方的で曖昧な指示をするだけ」「プライドの高い部下が多く、指導を受けるとむしろ反発するため、教えることをあきらめてしまう」といった問題が存在するようです。教える側には教え方を、教えられる側には教えられ方を身につける必要があります。

□仕組みで育てる
 弊社の講師は大手の日系企業出身者となりますが、彼らから「もと働いていた会社は、何がすごいかといえば仕組みがすごい」と言われて、はたと気づかされたことがあります。もちろんそうした日系企業にはしっかりとした教育体系もありますが、特別な内容の教育をしているわけでもありませんし、教育に必要以上の時間を割いているわけでもありません。しかしながら、会社で生活をする中で自然と期待される行動が取れるように、随所に仕掛けが施されているわけです。以下に、幾つか例をあげてみましょう。

・朝礼項目に、互いに安全具の装着や靴のかかとを踏んでいないかなどチェックしあうことが盛り込まれている
・昼食場に向かうルートが線引きされ水道の前を通るため、手を洗わないと食堂に入れない
・トイレのスリッパの置き場・置き方が写真つきで明示されている
・不良品の発生時やヒヤリ・ハットの体験時など報告フォーマットや回付ルートが規定されており、自然とホウレンソウが実践されるようになっている
・改善提案が制度化されており、各月の提案目標や評価方法、昇進・昇給判断への反映方法が規定されている

□仕事の仕方の標準化
 「こんなことも教えなければいけないのか。。。」ベトナムで仕事を始めると、日本では当たり前だったことがベトナム人にとっては当たり前でないことの多さに驚かされます。文化も異なり、WTO加盟から15年も経っていないベトナムの人材はまだ無垢の状態と考えたほうが良いでしょう。
 多勢に無勢なアウェイの環境で、日本人が一つ一つ注意、指導をしていくには限界があります。当たり前のことを一つ一つ仕組みに落とし込み、自社流の仕事の仕方として標準化していく必要を感じます。幸いベトナム人材は、日本的な仕事の仕方に敬意を表し、多少複雑な内容でも苦もなくこなしてくれますので、仕組みが整えば運用は比較的楽です。 体力のいる仕事ですが、仕組みを積み上げていくことによって、駐在員が変わっても、またベトナム人材が流動する環境下でもぶれない仕事の運営ができるようになります。

 

2020年11月9日月曜日

日本のベトナム人材育成への貢献を考える

 人材育成という事業ゆえ、弊社の事業は日本政府のベトナム支援策とも重なることが多く、日ごろ日本政府の支援の動きについても目を配っています。今回は日系企業に勤めるベトナム人従業員の育成という観点からは少し離れるのですが、筆者なりのこれからのベトナム支援について私見を述べたいと思います。

□より戦略的な支援への変化
 ODAといえば、水道もない村で井戸を掘ったり、学校を作ったりと途上国の人道支援的なイメージがありましたが、昨今のODAの位置づけは変わってきているようです。
 近隣国が官民一体で途上国市場の開拓に進んでいる状況も受けてか、本来であれば中所得国入りしたベトナムではODA額は漸減しても良いところが、むしろ原子力発電所建設や空港建設、高速鉄道導入など、より積極的に戦略的パートナとしての位置を進化すべく支援が強化されているように見受けられます。

□ASEAN統合とのベトナムの展望
 当初は、「裾野産業育成」という題目のもと、より日系企業の進出を促進するよう、進出日系企業へのサプライヤとしてベトナム企業を育成するよう支援が進められてきました。しかしながら、観察するにベトナム政府は裾野産業育成の必要性は理解するも、ベトナム企業が裾野を担うのではなく、裾野産業に属する日系企業がベトナムにより多く進出することを期待しているように見受けられます。
 その後「ベトナム工業化戦略」として、自動車・自動車部品など日本が期待する産業分野も戦略対象産業として指定されるに至りましたが、直近では当地盟主のホアンザーライグループやホアファットグループ、ビンコムグループが相次いで農業への参入を表明するなど、もう一方の戦略対象産業である農水産加工に国内の事業者は目を向けているようです。
 最近でこそ継続して黒字化が果たせていますが、ベトナムは慢性的な貿易赤字国です。輸出加工型の外国企業の進出でかろうじて黒字化を果たせていますが、基幹産業である縫製については糸や布はほとんど輸入に頼っており、農薬などもほとんど輸入です。付加価値の低い加工分野を国内で行い、価値の高い原材料をほとんど輸入に頼っている産業構造の課題はベトナム政府も認識するところです。
 そんな中、ASEAN経済統合も既に開始され、まったなしの状況下では自国の基幹産業である農林水産加工を強化し、付加価値の高い原材料分野を取り込もうとするのは自然な流れと感じます。一方で、電子・造船(ベトナム国営企業は経営破たん)自動車などの分野はもとより国内基盤が弱く、外国企業の更なる進出により強化したいとの期待が透けて見えます。

□ベトナム支援に向けた私見
 先記のようなベトナム経済の展望が正しいとすれば、日本のベトナムへの支援のあり方もおのずと見えてきます。

・ ベトナム基幹産業への支援
 ベトナムの農林水産加工業は家族経営的な零細事業者が多く、協同組合や流通網も十分に機能していませんし、技術的にも日本の近代的な農業とは比べようもありません。既に一部支援は始まっていますが、技術協力や日本の協同組合、流通の仕組みなど、まだまだ支援分野には事欠きません。

・ インフラ構築支援
 産業の高度化に向けて、港湾や高速道路などの経済インフラの高度化は併せて必要です。特にこれまでは箱物の建築が中心でしたが、地下鉄の安全な運行管理や質の高いサービスの提供に向けて人材を含めたソフト面の支援が必要になります。

・ ASEAN経済圏を見据えた日系企業の進出促進
 日本の裾野産業がベトナムへの進出に二の足を踏むのは、ベトナムだけでは十分な需要がなく採算が合わないから、とういこともあります。こうした企業もASEAN域内の関税撤廃によりASEAN全域の需要のもとで進出を検討することができるようになりつつあります。
 一方で、タイは右ハンドルでベトナムは左ハンドルのため、陸送ルートである東西回廊はできたものの、国境を越えるたびに輸送車を積み替えなければならないなどお粗末な話も聞こえてきます。こうした分野でもASEAN経済圏のメリットを日系企業が十分に取り込めるための支援も日本政府には期待されます。

 ベトナム人材育成の支援も、上記の対象分野に沿って見極めることができます。 電話の進化の歴史を知らず、突然携帯電話が町に溢れて使い方に慣れていないのがベトナムの現状です。現代的な技術や設備の導入ともに、受け皿としての人材の育成が期待されます。

2020年11月2日月曜日

ベトナム企業との付き合い方

 ベトナムへの進出やベトナム市場の開拓のため、ベトナム企業との合弁や協業といった話題が絶えませんが、残念ながら成功例が聞こえてきません。筆者の経験からも、日本企業が一般に合弁先・提携先に期待する役割をベトナム企業に担ってもらうことには相当な困難を感じます。今回は筆者なりの経験から、ベトナム企業と付き合う上での落とし穴や心構えを考えてみたいと思います。

□「濡れ手で粟」「棚からぼた餅」がベトナムでの成功の常套手段
 市場開放後2009年頃までは、今まで値段もつかなかった土地の使用権に高額な値段がつき、不動産バブルでベトナムが賑わいました。人脈や運が味方して、土地を転がして巨額の利益を得たり、ビルの建設資材の輸入で一儲けしたり、外資系企業の工場建設に土地を提供して株を得たりなど、高級外車を乗り回す成金層が生まれたのはこの頃からでしょう。
 時折新聞報道では、フォーの人気屋台を昼夜にわたって運営して御殿を立てたなどの苦労人の美談も流れますが、多くの事業家や投資家は何の苦労もなく資金を得て、実経験もない部品工場などを儲け話に乗って経営しているのが実情です。

□日本企業を待ち構える落とし穴
 こんな背景で生まれたベトナム人経営層ですので、日本的な「損して得を取る」「信用第一」といった経営心情に馴染みがないのも不思議ではありません。合弁や提携といった際に、事業パートナーとして対等の役割を期待してしまいがちですが、先方は悪意なく期待を裏切ってくれます。

1. 汗はかかない
 上記のようにビジネスに苦労がつきものという発想が薄いこともあり、商品の販売などを依頼しても、店頭にならべるだけだったり、業者に見せて買うか尋ねるだけで営業努力は期待できません。店に並べたり業者に見せて売れなければ、「売れなかった」で終わりです。

2. 相手は企業ではなく個人
 大手の企業や国営企業が相手の場合、企業対企業の連携を期待しますが、ベトナム企業はあくまで個人の集合体です。例えベトナム企業側の代表の承認を得ていても、活動するのは担当者個人で、そのベトナム人の人脈や力量に成否の全てがかかります。他の従業員は見向きもしませんし、協力もしません。合弁先が有力企業を顧客に持っていても、別の従業員の担当であれば、まったく関係のない先と同じです。

3. 契約書もあてにはならない
 ベトナム企業も外国企業ですから契約書の作成など、日本より一層慎重になるべきですが、知恵を絞って合意した契約書も法廷で勝訴となるまでは強制力はありません。ベトナム人は時勢を見て都度判断・行動をしますが、契約書の合意内容に沿っているかどうかなど気にもしません。また、来るものは拒まずで契約しますが、都度儲け話があれば優先順位は瞬く間に変わり、契約はしてもまったく行動に移されないこともあります。

□おんぶに、抱っこに、肩車
 ベトナム企業との付き合い方で良く言われるのが、「おんぶに、抱っこに、肩車」という言葉です。対等のビジネスパートナとして合弁・提携の合意を取り付けても、それに甘んじてはいけません。全て自分たちで成し遂げるつもりで取り組む必要があります。

1. 合弁・提携先への期待を限定する
 合弁や提携は避けられれば避けたいところですが、独資での参入規制や許可の取得などのため、合弁や提携を避けられない場合もあります。その場合でも、ライセンスや許可の取得のためと割り切り、それ以上の期待を持たないことです。特に実績や経験、人脈といった形のない資産はあてにはできません。

2. 全て自分たちでやるつもりで
 「ベトナムのことは良くわからないので合弁先に任せたい」と期待しがちですが、蓋をあければ物事が進まない、合意した通りに進んでいない、などはよくあることです。初めから合弁・提携先に期待せず、体制を組んで自分たちだけで成し遂げるつもりで取り組むことです。ベトナムでの仕事の仕方など、努力すれば1年で概ねわかります。

3. 相手に花を持たせる
 形式や対面を重んじるベトナムでは「失敗」はありえません。合弁・提携したら必ず成功すること、最悪でも先方に花を持たせて「失敗した」と世間に見られないように気遣う必要があります。その意味でも実験的な取り組みにベトナム企業を主体に巻き込んで進めることはお勧めしません。

 

2020年10月26日月曜日

日本人が求心力

 2006年のベトナムのWTO加盟より日系企業のベトナムへの進出が加速してはや14年、労賃の安いベトナムでは日本人材の人件費が際立つこともあって、現地化の声が高まっています。「現地の事は現地の人に任せるのが一番」と誰もが考えることですが、特に幹部人材の現地化は一筋縄ではいかないようです。

□ベトナムの事はベトナム人が一番よく分かっている?

 ベトナムの事はベトナム人が一番よく分かっている。そう考えるのはごく普通のことでしょう。ベトナム人材の採用にあたっては、ベトナム人従業員に面接をお願いし、より良い人材を見極めてもらおうと期待します。しかしながら、いざ面接をしてもらうと「あの人は経理の資格を持っています」「3年間の経験があります」など、履歴書を見ればわかるような表面的なことばかり。「あの人はまじめに働いてくれそうかな」と聞くと、「私はあの人ではないのでわかりません」という始末。日本人同士でも人を見る目というのはそうそう身につくものではないですが、もとよりいつ裏切られても仕方のないベトナム人同士では、人を見抜くということにはそもそも諦めさえ感じます。少なくとも要職につくベトナム人材の採用面接には日本人も同席することが必須です。
 また、従業員の数も増えてくると、コアとなるベトナム人材に一手に部下を束ねてもらいたくなりますが、これも容易ではありません。民間企業が芽生えて間もなく、公務員か農民がまだまだ一般的なベトナムでは、人を束ねる立場につくベトナム人には相当の高学歴か、政治力のある家系か、相応の年齢が求められます。そうでないと、部下となるベトナム人は言うことを聞きませんし、もとより人間関係のわだかまりを嫌うベトナム人材は、人心掌握を期待しても積極的に部下とかかわり合おうとはしません。
 一般的に人を束ねられるベトナム人材は、先記の要件を満たしたうえで面倒見がよく、親分肌の政治上手な人ですが、そうしたベトナム人材に巡り合うのは至難の業で、これはと思うベトナム人材を根気よく育てていくよりなさそうです。

□日本人材が求心力
 かつての日本人が、アメリカ人とみれば優秀で人格者だと思ってしまったように、ベトナム人材は外国人、特に日本人には相当に高い下駄をはかせてくれています。日本人の意見であれば正しいものと思ってくれますし、ともすれば全ての判断が日本人に集中してしまうほど、信頼(もしくは責任逃れ)してくれます。
 そのため、日系企業では日本人が信頼できる権威者としての求心力となります。日本人が先頭に立ってベトナム人材をまとめていくとともに、これはと思えるベトナム人材に求心力を持たせるべく、働きかけていく必要があります。

1. 慶弔行事はかかさない
 結婚式にお葬式、はたまた子供の誕生日会など、年齢層の若いベトナム人従業員からのお誘いは絶えることがありません。しかも、2~3日前に報せがあることが悩みの種です。しかしながら、従業員からの信頼を裏切らないことと、従業員の両親に「お宅の子には期待していますよ」と伝える意味でも慶弔事への参加はかかせません。「休みなのになあ」と愚痴らず、出席することをお勧めします。旧正月前に全従業員の両親宛に社長自ら手紙を書いて持たせる会社もあります(旧正月後に復帰することを期待して)。

2. 日本人が手本となる
 ベトナム人従業員にしてもらいたいと思うことは、まず日本人が率先して行い、手本となることが必要です。朝はもとより廊下で従業員とすれ違ったら挨拶をする、床のゴミを拾う、現場に赴き従業員に声をかける、昼食を食べ残さないなど。ベトナム人従業員は日本人の振る舞いを見ています。カラオケでの武勇伝など、親しい従業員から尋ねられることがありますが、素直に答えないほうが良いでしょう。

3. これはと思う従業員を権威づける
 日本語が上手、気が利くなど日本人から見て使い勝手の良いベトナム人材に目をかけがちですが、上記のような日々期待する行動が自然にできるベトナム人材を候補として見据えるべきでしょう。ただ、そのままでは他のベトナム人従業員からの人望を得られるわけでもありませんので、意識的にそうした候補者を権威づける必要があります。重要な仕事の意思決定を任せる、「あの人に聞いて」など意識的に日本人経営者からの信頼を得ている、正しい仕事の仕方をしていると、他の従業員にアピールする必要があります。そうするうちに、「あの人のやり方を見習えば良い評価が得られる」と従業員の手本としての信頼が集まります。その上で管理者としての人格教育を施していくこととなります。

果たして経営の現地化は進むか

 90年代後半、世界経済の3つのシナリオというのを目にしました。世界経済は大国のもと一様化するという第一のシナリオ、少数の強国に収れんされるという第二のシナリオ、そして複数の国により混沌化するといったものです。ソ連崩壊後の安定した経済化の当時は、当然のごとく第一シナリオが有力に感...